1.
山んばのにしき3
2. 【1】そこで、いろりの
火をどんどんもやし、でっかいなべにくまの
すまし汁こさえ、もちいれて
食った。まず、そのうまいこと、ばんばは、
腹いっぱいになったと。
3.【2】「やれ、ごちそうだったこと。そんではおら、これで
村へかえらしてもらうから。」
4. ばんばがそういうと、
山んばは、
5.「なに、そんなにいそぐことはねえ。ここにはてつだいもいねし、二十一
日ほどてつだっていってくれや。」
6.といった。
7. 【3】しかたなくあきらめて、あかざばんばは、
水くんだり、
山んばの
足もんだり、きょう
食われるか、あすこそ
食われるかとおもいながら、はやいもので二十一
日たってしまった。
8. 【4】そこで、ばんばはおそるおそる、
9.「
家でもしんぱいしてるべから、かえりたいども。」
10.というと、
11.「なんとやっかいかけたな。
家のつごうもあるべから、かえってくれ。なんの
礼もできんが、にしきを一ぴきくれてやる。【5】これは、なんぼつかっても、つぎの
日には、またもとどおりになっている、ふしぎなにしきだ。
村の
人たちには、なんにもねえどもだれもかぜひとつひかねよに、まめでくらすよに、おれのほうで
気をつけてやるでえ。」
12.【6】
山んばは、そういうと、がらに、
13.「がら、がら、ばんばをおぶっていってやれ。」
14.といいつけた。
15.「なに、おら、あるいてかえるから。とんでもねえ、おぶさるなんて。」
16. 【7】ばんばは、あわてて
手をふったが、がらはすっとんできて、ばんばを、ひょいとせなかへのせ、
17.「
目え、ふさいでれ。」
18.といったかとおもうと、
耳のあたりにすうすう
風がふいていく。∵【8】とんと、
地面におろされて、
目をあけてみれば、そこはなんと、ばんばの
家のまえであった。
19.「がら、がら、よってやすんでいけ。」
20.といったときには、もう、がらのすがたはなかった。
21. 【9】ばんばが
家の
中へはいろうとすると、
22. なんまんだあ なんまんだあ
23. なんまんだあ なんまんだあ
24.と、お
経をあげる
声がする。それにまじって、おうえ、おうえ
泣く声もして、どうやら、だれかが
死んだようだ。【0】ばんばはたまげて、
25.「だれか
死んだかやえ。」
26.とはいっていった。すると、
27.「ひえ、ゆうれいだ。たましいがかえってきたど。」
28.と、あつまっていた
村じゅうのもんが、
目えむいたり、ひっくりかえったり、でかさわぎになった。
29.「ゆうれいなものか。おらだ、あかざばんばがいまもどったど。」
30.「ほんとか、ほんとにばんばは、
生きているだか。」
31.
村の
衆は、
泣いてよろこんだと。
32. そこで、ばんばは、
33.「さあさあ、
山んばのにしきをやるべ。」
34.と、
村じゅうに
山んばのにしきを、きってはわけ、きってはわけ、じぶんの
手もとには、ほんのすこししかのこさなかったと。しかし、つぎの
日になってみると、ばんばの
手にのこったにしきは、もとどおりになっていたそうな。
35.
村の
人たちは、みたこともないにしきを、ふくろにしてさげたり、はんてんにしたり、おおよろこびで
家の
宝にしたと。
36. そして、それからというもの、
村の
人たちは、かぜもひかず、みんな、らくにくらしたということだ。
37. とっぴんぱらりのぷう
38.
39.「
日本の
むかし話1(
松谷みよ子)
講談社青い
鳥文庫」