1. ヘレンは一
歳半のころ、
重い病気で、
目が
見えなくなり、
耳も
聞こえなくなりました。
声を
出すことはできましたが、
他の
人の
話が
聞こえないため、
正しく話すこともできませんでした。そのために、
人に
思っていることをうまく
伝えられずに、
毎日癇癪をおこしてはあばれ、まるで
動物のように
手づかみでものを
食べるというような
生活ぶりでした。
家族の
人たちは、いったいこの
子は
将来どうなってしまうのだろうと、
胸がつぶれる
思いでした。
2. ぽかぽかとおひさまがほほえむ
四月のはじめ、
運命の
日がやってきました。サリバン
先生は、
庭の
井戸から
水をくみ、ヘレンの
手をとって、そのつめたい
水をかけました。
3. ヘレンはおどろいて
手をひっこめました。その
手をまたとって、サリバン
先生は
水をかけました。
何度かそうするうちに、ヘレンは
気持ちよさそうに、
手をのばしたままにしました。そこで
先生は、ヘレンの
手のひらに
指でこう
書きました。
4. 「
w a t e r」
5. ウォーター、そう、
水のことです。ヘレンは
不思議そうな
顔をしています。そこで、サリバン
先生は
もう一度、その
手に
水をかけました。そして、すぐにまた、「water」と
書きました。ヘレンは、
考えているようすです。さらに
先生が、ヘレンの
手に
水をかけたところ、ヘレンがうなずいたのです。すかさず、
先生は「water」と
書きました。すると、へレンが、
先生の
手を
探りあて、
同じように
何かをその
手に
書こうとしました。
6. 「わかってくれたのね」サリバン
先生は、
胸の
高鳴りをおさえつつ、ヘレンの
手をとり
自分の
顔に
持って
行き、ほおをなぞらせたあと、くちびるにあてがいました。それから、ゆっくりとそしてはっきり、
発音しました。
7.「ウ、ォーター」
8.
もう一度、
言いました。∵
9.「ウォーター」
10.すると、ヘレンもまねをするようにくちびるを
少しうごかしました。
息とも
声ともつかないかすかな
音がヘレンの
口から
出ました。
11. この
日のことをサリバン
先生は
一生忘れなかったでしょう。
目が
見えず
耳も
聞こえず、
口もきけなかったヘレンが、
生まれてはじめて
言葉にふれた
瞬間です。ヘレンは、
服をびしょぬれにしながら、
何度も
水にさわり、
先生の
手をとって、
文字らしきものをその
手に
書き、くちびるを
動かしました。サリバン
先生も、よろこびの
涙と
水でぐしゃぐしゃになりながら、「ウォーター」「ウォーター」と
繰り返すのでした。
12.
言葉の
森長文作成委員会(φ)