長文集  10月2週  ○ヘレンは一歳半のころ  00u-10-2
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2014/09/04 14:42:09
 ヘレンは一歳半のころ、重い病気で、目が
見えなくなり、耳も聞こえなくなりました。
声を出すことはできましたが、他の人の話が
聞こえないため、正しく話すこともできませ
んでした。そのため に、人に思っているこ
とをうまく伝えられずに、毎日癇癪(かんし
ゃく)をおこしてはあばれ、まるで動物のよ
うに手づかみでものを食べるというような生
活ぶりでした。家族の人たちは、いったいこ
の子は将来どうなってしまうのだろうと、胸
がつぶれる思いでし た。 
 ぽかぽかとおひさまがほほえむ四月のはじ
め、運命の日がやってきました。サリバン先
生は、庭の井戸から水をくみ、ヘレンの手を
とって、そのつめたい水をかけました。
 ヘレンはおどろいて手をひっこめました。
その手をまたとって、サリバン先生は水をか
けました。何度かそうするうちに、ヘレンは
気持ちよさそうに、手をのばしたままにしま
した。そこで先生は、ヘレンの手のひらに指
でこう書きました。
 「w a t e r(ウォーター)」 
 ウォーター、そう、水のことです。ヘレン
は不思議そうな顔をしています。そこで、サ
リバン先生はもう一度、その手に水をかけま
した。そして、すぐにまた、「water」
と書きました。ヘレンは、考えているようす
です。さらに先生が、ヘレンの手に水をかけ
たところ、ヘレンがうなずいたのです。すか
さず、先生は「water」と書きました。
すると、へレンが、先生の手を探りあて、同
じように何かをその手に書こうとしました。
 
 「わかってくれたのね」サリバン先生は、
胸の高鳴りをおさえつつ、ヘレンの手をとり
自分の顔に持って行き、ほおをなぞらせたあ
と、くちびるにあてがいました。それから、
ゆっくりとそしてはっきり、発音しました。
 
「ウ、ォーター」∵ 
もう一度、言いました。 
「ウォーター」 
すると、ヘレンもまねをするようにくちびる
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を少しうごかしまし た。息とも声ともつか
ないかすかな音がヘレンの口から出ました。
 
 この日のことをサリバン先生は一生忘れな
かったでしょう。目が見えず耳も聞こえず、
口もきけなかったヘレンが、生まれてはじめ
て言葉にふれた瞬間です。ヘレンは、服をび
しょぬれにしながら、何度も水にさわり、先
生の手をとって、文字らしきものをその手に
書き、くちびるを動かしました。サリバン先
生も、よろこびの涙と水でぐしゃぐしゃにな
りながら、「ウォーター」「ウォーター」と
繰り返すのでした。

 言葉の森長文(ちょうぶん)作成委員会(
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