1.【1】「カー! カー! カー!」
2. さむい、さむい、
正月の
朝。
3. ひとりのおぼうさんが、からすの
鳴きまねをしながら
京都の
町を
歩きまわっています。
4.【2】「なんや、へんなぼうさんやなあ。」
5.「やや! このぼんさん、しゃれこうべもってるえ!」
6.
子どもたちがさわいでもへいっちゃら。
7.「カー! カー! なむあみだぶつう……。」
8. 【3】おぼうさんは、一けんの
大きな
家の
前でとまると、もっていたしゃれこうべをふりふりおきょうをとなえだしたのです。
9.
門があいて、
主人が
出てきました。
10.「
帰りや、このくそぼんず! めでたい
正月にえんぎでもないわ!」
11. 【4】すると、おぼうさんはこういったのです。
12.「まあ、よくごらん。しゃれこうべは、
目が
出っぱなし。こんなにめでたいものもない。それに、
人はみな、いつかこうなるのだ。」
13. 【5】
主人は、あわててなかにひっこむと、
14.「いや、
負けましたわ、なんまんだあ。」
15.と、おぼうさんがかけているふくろのなかにひとつかみのお
米をいれてくれました。
16. 【6】つぎの
家でも、そのつぎの
家でも、おぼうさんは、
同じようにしゃれこうべを
見せ、おきょうをあげて、お
米をもらいました。
17. おぼうさんのふくろは、お
米でいっぱいになりました。【7】おぼうさんは、それをもってまずしい
人々のところへいきました。そして、
18.「さあさあ、みんなでおかゆをたいて、いただこう。」
19.といったのです。∵
20. 【8】おぼうさんの
名まえは、「
一休」。
21.「ねえ。どうして『
一休』っていうの。」
22.「わしはな、
一休みしながら
生きるのがすきなんじゃ。だから『
一休』さ。のんびり
生きるのは、いいことだよ。」
23.といったそうです。
24. 【9】それはいまから六
百年ほど
昔。
室町時代のことでした。【0】
25.(
岡田好恵)
26.「
心をそだてるはじめての
伝記101
人」(
講談社)