【1】江戸時代は、戦争の多 かった当時のヨーロッパとはち がい、犯罪も少ない平和な時代 でした。大都会の江戸で二百年 以上もお風呂屋さんの料金が変 わらないという、とても安定し た時代だったのです。 【2】多くの人が、長屋とい うせまい家に身をよせあって暮 らしていましたが、ぜいたくを 言わなければ食べ物は充分にあ り、貧しくとも心豊かに生きる ことができる時代でした。そこ でいろいろな庶民の文化が生ま れ育っていきました。【3】な かでも園芸はとてもさかんでし た。 広い庭はなくても、鉢植えの 植物ならだれでも楽しむことが できます。たくさんの人々が鉢 物のおもしろさに熱中し、やが てそれぞれの時代の流行も生ま れました。【4】カラタチの小 さな鉢植え一つに、今で言えば 数億円の値段がついたこともあ ったということですから、その 熱中の度合がよくわかります。 ところで、江戸時代にはまだ 電灯がなく夜は早く寝たので、 多くの人が早起きでした。【5 |
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】そこで早起きで美しく見られ る花、アサガオが親しまれ、大 流行しました。江戸時代以前に は、アサガオは淡い青色のもの だけで、道のすみなどに咲いて いる地味な花でした。【6】そ れが江戸時代の後期になると、 花も葉も実にさまざまな変わっ た種類のものが栽培されるよう になりました。カラーで印刷さ れたアサガオの専門書まで何冊 も出されました。町中では、天 秤棒をかついだ植木売りが歩い ている姿がよく見られました。 【7】アサガオの優劣を競う花 合わせ、コンクールもさかんに 行われ、お寺や神社の境内など には、自慢の珍しい鉢植えがた くさん持ち寄られました。 アサガオは色や形が変化しや すい植物なの で、いろいろな ものが作られました。【8】当 時のカラーの本の中に、濃い黄 色のアサガオがあります。濃い 黄色のアサガオを咲かせること は、現代の技術でもまだできて いません。∵ 花の色や形だけでなく、葉も 花に合った形のものが珍重され ました。【9】中でも好まれた のが牡丹咲(ざ)きと言われる もので、これは雄しべや雌しべ までが花びらと同じような色や 形になったものです。しかし、 苦労を重ねた 末、やっと満足 のいく色や形のものができて も、変化の進んだ花ほど種がで きないのが普通です。【0】牡 丹咲(ざ)きのものは、種をつ くるのに必要な雄しべや雌しべ までが変化したものになってい るのでなおさらです。そこで、 牡丹咲(ざ)きの花と同じ親を 持つ兄弟で普通に咲いた花から 種をとり、その種から芽を出し たものからまた牡丹咲(ざ)き のものを選ぶという、気の遠く なるような手間をかけて、新し い品種を作っていったのです。 こんなに手間のかかることで は、「アサガ オ」そい人(ひ と)には、とてもできなかった でしょう。 言葉の森長(ちょう)文作成 委員会 α |