長文集  7月1週  ○江戸のあさがお  00i-07-1
    毎日1ページ音読しましょう。漢字はふりがなをつけずに読めるようにしておきましょう。  2015/06/13 10:41:43
 【1】江戸時代は、戦争の多
かった当時のヨーロッパとはち
がい、犯罪も少ない平和な時代
でした。大都会の江戸で二百年
以上もお風呂屋さんの料金が変
わらないという、とても安定し
た時代だったのです。
 【2】多くの人が、長屋とい
うせまい家に身をよせあって暮
らしていましたが、ぜいたくを
言わなければ食べ物は充分にあ
り、貧しくとも心豊かに生きる
ことができる時代でした。そこ
でいろいろな庶民の文化が生ま
れ育っていきました。【3】な
かでも園芸はとてもさかんでし
た。
 広い庭はなくても、鉢植えの
植物ならだれでも楽しむことが
できます。たくさんの人々が鉢
物のおもしろさに熱中し、やが
てそれぞれの時代の流行も生ま
れました。【4】カラタチの小
さな鉢植え一つに、今で言えば
数億円の値段がついたこともあ
ったということですから、その
熱中の度合がよくわかります。
 ところで、江戸時代にはまだ
電灯がなく夜は早く寝たので、
多くの人が早起きでした。【5
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】そこで早起きで美しく見られ
る花、アサガオが親しまれ、大
流行しました。江戸時代以前に
は、アサガオは淡い青色のもの
だけで、道のすみなどに咲いて
いる地味な花でした。【6】そ
れが江戸時代の後期になると、
花も葉も実にさまざまな変わっ
た種類のものが栽培されるよう
になりました。カラーで印刷さ
れたアサガオの専門書まで何冊
も出されました。町中では、天
秤棒をかついだ植木売りが歩い
ている姿がよく見られました。
【7】アサガオの優劣を競う花
合わせ、コンクールもさかんに
行われ、お寺や神社の境内など
には、自慢の珍しい鉢植えがた
くさん持ち寄られました。
 アサガオは色や形が変化しや
すい植物なの で、いろいろな
ものが作られました。【8】当
時のカラーの本の中に、濃い黄
色のアサガオがあります。濃い
黄色のアサガオを咲かせること
は、現代の技術でもまだできて
いません。∵
 花の色や形だけでなく、葉も
花に合った形のものが珍重され
ました。【9】中でも好まれた
のが牡丹咲(ざ)きと言われる
もので、これは雄しべや雌しべ
までが花びらと同じような色や
形になったものです。しかし、
苦労を重ねた 末、やっと満足
のいく色や形のものができて 
も、変化の進んだ花ほど種がで
きないのが普通です。【0】牡
丹咲(ざ)きのものは、種をつ
くるのに必要な雄しべや雌しべ
までが変化したものになってい
るのでなおさらです。そこで、
牡丹咲(ざ)きの花と同じ親を
持つ兄弟で普通に咲いた花から
種をとり、その種から芽を出し
たものからまた牡丹咲(ざ)き
のものを選ぶという、気の遠く
なるような手間をかけて、新し
い品種を作っていったのです。
 こんなに手間のかかることで
は、「アサガ オ」そい人(ひ
と)には、とてもできなかった
でしょう。

 言葉の森長(ちょう)文作成
委員会 α