整とんということ
1身のまわりをきちんと片づけておくことを整とんという。小学校、中学校と、ずいぶんやかましく整とんをするようにいわれた。
いちばんやかましくいわれたのは、兵隊にとられて、兵舎で生活したときだ。
2軍隊では、兵隊は所持品の数がきまっていた。全部「官給品」といって、一時貸してもらってつかうのだ。シャツが二枚、ズボン下が二本、クツ下が三組というように、だれにもおなじ数だ。
3それを、寝るときにはたなの上の物入れのどこに、どんなふうにたたんで入れるかが、ちゃんときまっていた。
兵舎の中を、週番士官がみてまわるから、練兵場に訓練にいったるすに、整とんがわるいと、あとでひどくしかられた。
4寝るまえも、朝起きたときも、整とんをしらべられた。
そんなにやかましく整とんをしつけられたのだから、さだめし整とんをうまくやっているだろうと思うかもしれないが、まったく逆だ。
5私の、本をよんだり、ものをかいたりする部屋はいつもちらかっている。二か月に一度ぐらい大整理をやるが、すぐちらかってしまう。
自分の部屋で、自分の好きなことをすると、整とんはできないのだと思うようになった。
6会社とか学校とか、よその建物をかりて、みんなで使っているときは、整とんも必要だろうが、自分の部屋は、自分のはたらきいいようにしておけばよい。
本だって、いちいちしまいこんでおいては、すぐによめない。7自分以外の人がみれば乱雑かもしれないが、自分では、何がどこにおいてあるか、ちゃんとおぼえている。うっかり整とんされてしまうと、てんてこまいしなければならない。
8いろんなものが、自分の行動にしたがって、あちこち自然に配置されていることが、自分の部屋にいるという安定感をあたえる。
もっとも、性分ということもあって、使ったら何でも、もとのところにかえさないと気がすまない人もある。9だが、そんなのは少数派だ。
人間は、自分の部屋で仕事をすればするほどちらかるのだ。だから、中学生や小学生が、
「せっかく勉強室をたててやったのに、整とんがわるい」
といわれるのをきくと、まったく同情する。0
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