a 長文 1.3週 yube2
孤独こどくについて

 君は孤独こどくを感じたことがあるか。
 もし、それを感じたことがあったら、それは君が成長したしるしだ。悲しむことはない。
 いつも、まわりのおおぜいの友人といっしょになって、先生の失敗をはやしたてたり、流行歌を合唱したりして、それで毎日がたのしいというのは、自分の個性を自分でみつけていないのだ。
 あるいは、個性をそだてることがおっくうなので、おおぜいのなかにとけこんでごまかしているのだ。渡り鳥わた どりが群れをつくってとんでいるようなものだ。おおぜいのいくところについていけばいいという気持ちだ。
 ところが、自分はおおぜいにはついていけないという気持ちがおこってくる時がある。
 自分にだけ能力があるという、えらそうな気持ちからでなく、そうなる時がある。
 そして、おおぜいからすこしはずれたところにでていって、はじめて救われたようになる。
 これを、孤独こどく病という病気のように思うことはない。みんなにとけこめない自分を悲しく思うことはない。
 人間はめいめい個性をもっている。それが中学生のころになると、急に成長するので、ほかの人とあわないところがでてくる。
 それぞれちがった個性が一度に開花してくるのだから、ほんとうは中学の時代は、まとまりのわるいものだ。ところが、いまは受験勉強というもので、みんなに同じような生活が強いられている。
 みんながおなじ模擬もぎテストをうけ、おなじ宿題をやらされ、おなじように時間がたりないところにおいこまれている。みんながおなじようなことをかんがえ、おなじようにさわぐのは、受験勉強にたいする共通した反応だとかんがえていい。受験勉強のために、個性の開花はおさえられている。
 そのなかで、自分の個性の成長を感じ、自分はすこしちがうと思いはじめるのが、孤独こどくなのだ。
 自分のような孤独こどくな人間が生きていけるだろうかなどと思うのは、まちがっている。個性的であるという点で、人間はみんな孤独こどくなのだ。
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 人間は渡り鳥わた どりのような個性のないものでない。めいめい孤独こどくなのだと自覚し、孤独こどくだからこそ連帯が大事だということになって、はじめてほんとうの連帯が生まれるのだと思う。

『人生ってなんだろ』(松田道雄みちお)より
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