1人間には、人それぞれの基本的な行動のパターンのようなものがあるようだ。たとえば、何か新しい場面に出合うと、はしゃいでしまって、ついしなくてもよいようなことまでやってしまうとか、逆に、どうしてもひっこみ思案になってしまうとか。2しかし、このようなことに気がつくと、あんがいそれは変えられるもので、他人にもあまり気づかれないくらいにはなる。
だが、自分もだいぶ変わったかな、などと思っていても、いざという場面──緊急のときとか思いがけないことが生じたとき──になると、知らぬ間に以前の型にかえってしまう、ということはよくある。3それは突発的に起こり、自分でも気がつかないときさえあるが、傍らで見ている人には明瞭に見えるものだ。このような人間の行動の「回帰現象」とでも言えるようなことがあるのを知っておくと、便利であると思われる。
4個人の行動の型だけでなく、ある程度は文化的な型もあると思われるが、ここでも同様のことが生じる。たとえば、日本人だと、すぐには自己主張をせずに、全体との関連を考えたり雰囲気に合わせたりしながら、ゆっくりと間接的に自分の考えを表明してゆくが、欧米では自分の意見を最初から明確に表現することが期待される。5あるいは、日常的な例をあげると、贈り物をするときでも、日本人は「お気に入らないかと心配しています」というような表現をするが、欧米だと「お気に入っていただくと嬉しいです」という表現になる。
6こんなことがわかってくると、私などは欧米に行くと、必要に応じて『スイッチ』の切り替えをして、ある程度は欧米式でやってゆくようにしている。7しかし、むしろ大切なときとか何か圧力を感じるときなど、知らぬ間にスイッチが切り替わって「回帰現象」を起こしているのに気づき愕然とすることがある。8このようなことは、相当ベテランの外交官やビジネスマンでも外国人相手の交渉のときに経験するのではないだろうか。
先日マンスフィールド・センターから招かれて話をしたとき、このような「回帰現象」についても少し触れようと思った。9しかし、それほど一般的なこととして言えるかどうか心配でもあったの
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