1科学技術は、人間にとっての環境世界を大きく変えてきました。人間単独では見えない世界、できない世界を、見える世界、可能な世界に変えてきたわけです。
2もともと人間は、好奇心が非常に旺盛な生き物です。今まで感じることのできなかった環境世界を感知することができるようになれば、それだけでも大きな満足です。3さらに、行けないところに行けるようになる、持ち上げられなかった物が持ち上げられるようになる、作れなかった物も作れるようになる、もうこうなってくると、好奇心というよりも欲望と言った方がいいかもしれませんが、それを実現することを、科学技術は可能にしてくれたのです。
4当然これは、人間にとってはおもしろいしありがたいことですから、どんどん先へと進みます。科学技術は、ある意味、夢をかなえてくれる道具だったのです。科学技術の歴史は、人間がその夢をかなえ、欲望を満たすための道具を開発してきた歴史だと言ってもいいでしょう。
5さて、問題は、科学技術の発展が累積的だということです。自転車ができて速く遠くへ移動できるようになったら、次は、より速く、より大量に移動できるように改良したり、新しい道具を開発したりします。6今、到達しているところが、次への出発点になるのですね。だから、全自動洗濯機がはじめて届いて感動していても、しばらく経つとそれが標準の状態になってしまって、さらなる便利さを求めていくわけです。
7この累積性というのは、科学技術に限らず人間の文化現象すべてに共通の特徴です。文学作品だって美術作品だって、今までには表現されていないテーマや技法を求めて、作家たちは苦労しています。8過去が蓄積されていて、そこから出発しているわけです。科学技術も累積的に発展してきたからこそ、これだけ膨大な知識を集めることができ、強大な道具を作ることができるようになったわけです。
9ところが、これが両刃の剣でした。単独の科学的知見や技術的成果であれば、その影響力は人間の想像力の範囲内です。しかし、どんどん累積的に発展してくると、あまりにも規模が大きく、
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