a 長文 7.3週 yabi2
 アサガオの研究家のこんな話を読みました。
 アサガオは夜明けに咲きさ ます。私たちは、アサガオは、朝の光を受けて咲くさ のだと考えています。
 しかし、事実はそうでありません。アサガオのつぼみに二十四時間、光を当てておきます。そうして朝の光に当てる。しかし咲かさ なかった。
 では、どうしてアサガオは朝咲くさ のでしょうか。
 アサガオには朝の光に当たる前、夜の冷気とやみにさらされている時間があります。これが不可欠なのだそうです。
 この話は実に感動的で、示唆しさに富んでいます。私たちは、朝の光を受けて鮮やかあざ  に花開くアサガオに目を奪わうば れがちで、アサガオには朝の光と温度が必要なのだと考えてしまいます。
 アサガオが、夜の冷たさと深い暗闇くらやみに包まれる時間があって、はじめて咲くさ ことができるのだ、ということに気づかないし、忘れています。
 このことは一人ひとりの人生にも、歴史にも、なぞらえることができます。
 今、自分がここにいます。私たちを取り囲む環境かんきょうがあり、状況じょうきょうがあり、それらを押しお くるむ空気があります。それらが今という時代を形作っています。
 しかし、手で触れふ 、目で見ることができるここだけを考えていても、何もわからないでしょう。それは朝の光を受けているアサガオだけを見るようなものです。
 その前に冷たく暗い夜があってアサガオは朝の光の中で咲いさ ているのだ、ということがわかりません。そして、アサガオを咲かせるさ   ために常に光を当て、温度を与えるあた  ような過ちを犯してしまうことになります。
 私が忘れ去られたもの、埋もれうず  たもの、見失われたものに関心を向けるのは、このこととつながってきます。今の自分を自分たらしめているものがそこにあると思うからです。それに気づいたと
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き、私たちの生き方もより確かなものになっていくのではないでしょうか。

(出典 五木寛之ひろゆき・福永光司「混沌こんとんからの出発」)
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