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 「フランダースの犬」は、私に多くのことを感じさせたが、自身でこしをすえて見た最後のアニメになった。やがて、子どもを持つようになり、「子育て補助材」として「アニメ」との付き合いが再開した。そのようななか、子どもがもの心つきだすと「それいけアンパンマン」(日本テレビ系列)をよろこんで見るようになった。
 アニメ化される前から絵本で「アンパンマン」を知っていたが、困った人を助けるほのぼのした話が多く好印象を持っていた。主人公は地味で体裁悪いが、懸命けんめいに人助けをしていた。それだけに、アニメに対しても、もの心つきだした子どもに、多くの教訓をあたえてくれるものと期待していた。絵本では体裁の悪かった主人公もアニメでは洗練され、ヨーロッパ風の街並みや雪をいただいた山々など背景も美しく、見た感じも良くなっている。わが家でも、ビデオに録画した「それいけアンパンマン」を、親の手を解放して欲しい時などなん度も見せていた。
 しかし、いく度か見せているうちに、原作者やなせたかし氏がテレビアニメ化を意識せずに絵本にえがいていたころの「アンパンマン」と、テレビアニメ「それいけアンパンマン」が別物に思えてきた。最初のころの絵本は、悪者バイキンマンが登場することも少なかったが、アニメでは、若干の例外をのぞいてバイキンマンが必ず登場し、悪さのかぎりをつくし、説得もさとしも通じず、最後はアンパンマンが「もう許さないぞバイキンマン! アーンパンチ!」でやっつけるという、まるで水戸黄門のようなワンパターンをくり返している。
 さすがに、「殺す」とか「死ね」といった言葉はふせられているが、「とどめだ」「やっつけてやる」という言葉で悪者がなにをしようとしているか、幼児たちにも十分わかる仕かけになっている。
 一九八八年の放映開始から十年近くたつが、バイキンマンと主人公たちの心の距離きょりはちぢまらない。相手になにが不足で、どうすれば歩みよれて争わずに済むのか、問題を根っこから解決しようとする場面がこのアニメでは登場しない。残念ながら、テレビアニメの「それいけアンパンマン」は、悪者はどこまでも悪いやつで、たたきのめすしかない」という考えを、幼い子どもたちにインプットしてしまいそうだ。子どもにこのアニメを見せた後、「お友だちとケンカにならへんためには、どうしたらいいやろね」「ケンカしても、なんでケンカになったか、後で考えようね」など、いつもなにかフォローを付けなければならなかった。
 
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もう少し子どもが成長すると、テレビ朝日系列の「ドラえもん」をよろこんで見るようになった。これも原作コミックでは、ほのぼのとした話が多いのに、テレビアニメになると、ずいぶんとエゲツないシーンがある。
 たとえば、テレビアニメでは毎回のように、ジャイアンやすね夫はのび太をなぐるシーンがあるが、なかには「今日はむしゃくしゃするから、のび太でもぶんなぐろう」「のび太のくせに生意気いうな」といったセリフまである。
 のび太は、この「いじめ」に、いつも、ドラえもんの「道具」をかりて抵抗ていこうしている。ところが、立場が変わると、今度はいじめる側にまわろうとする。けっきょく、調子に乗りすぎて、もとの木阿弥あみになるというパターンが、放映開始からずっとつづいている。年に一回、春休みに上映される映画の「ドラえもん」では、のび太も少しは根性があり、ジャイアンやすね夫も一方的ないじめっ子でないことが多い。主人公たちがいっしょに困難にぶつかりながら助けあう場面もえがかれている。ところが、テレビアニメののび太は、一九七九年に放映がはじまってから二十年ちかく、ドラえもんの道具がなければなにもできない、無気力な「劣等れっとう生」のままで、まったく成長していない。当然、毎週放映されるテレビアニメの方が、子どもたちの目にふれる機会は、はるかに多い。せっかく原作コミックや劇場用長編アニメで子どもたちに教訓をあたえているのに、よりポピュラーなメディアであるテレビアニメの短絡たんらくさが気になってしかたない。もちろん、「それいけアンパンマン」や「ドラえもん」だけに問題があるのではない。もっとエグいものはいくらでもある。しかし、この二つのだれもが知っているアニメ番組ですら人と人がじっくり向き合い、どうすれば問題が解決するのか、掘り下げほ さ て考える場面が出てこない。少なくなっていく子どもたちの体験の場をおぎなうのではなく、短絡たんらく的なワンパターンをくり返すことで、長寿ちょうじゅ番組になっている。
 日本では、もめごとを「相手よりも強い力」や「他人の力」で、解決してすますアニメが多いが、もし、だれかにひどい目にあわせられている子どもがいるとして、かれのもとに「アンパンマン」は助けにきてくれないし、「ドラえもん」も近くにいない、となればいったい、どうすればいいのだろう。
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