Kがのぼれるかぎりの高いところまでのぼりついて、ほっとひと息ついたとき、かん高い声で話しあう水夫たちの声がしだいに近づいてきた。
Kは枝のしげみに、身体をかくすようにして彼らの声に注意を配っていた。
水夫たちが、家の前にあらわれた。
水夫たちは、声高にしゃべりあっていた。
ひとりの黒人が、入り口の戸があいているのを発見して、指をさしながら大声で仲間に告げていた。
水夫たちは雨戸をたたいたり、交互に入り口から中をのぞいたりした。しかし、だれ一人として一歩も中に入ろうとする者はいなかった。
Kはそれを見て、彼らが悪者でないことを心に感じとった。
家の中から、何の返事もないので、水夫たちはすごすごと通路にひきかえし、また、つぎの家へおしかけていこうとした。
水夫の一群の中で、いちばん最後に、入口をのぞいた男が榕樹の樹の下を通りすぎようとして足をとめた。その男はズック製のからバケツをさげていた。ほかの水夫たちより少し年をとった白人であった。彼はズックのバケツを下におき、ポケットからしわくちゃのハンカチをひっぱりだして、顔や、首や、シャツからはだけた胸や、腕の汗をふいた。オールのように太い腕は日やけして、金色の毛がいっぱいに生えていた。この水夫は榕樹のかげで少し涼んでいくつもりらしかった。
あんのじょう、彼は煙草をとりだして火をつけた。
Kは息をのんで、見つめていた。
男は、煙草をうまそうに、ひと口すいこむと、ふいに上を向いて、榕樹を眺めまわした。
Kがあわてたしゅんかん、持っていた枝がゆれて、葉が、かすかではあるが、音をたてた。
Kと西洋人の水夫は、視線をあわせてしまっていた。
|