a 長文 11.4週 tu
 さああまがえるどもはよろこんだのなんのって、チェッコという算術さんじゅつのうまいかえるなどは、もうすぐ暗算をはじめました。いいつけられるわれわれの目方は拾もんめやく三十七グラム)、いいつける団長だんちょうのめかたは百もんめ、百もんめわる拾もんめ答十。仕事は九百貫目かんめ、九百貫目かんめかける十、答九千貫目かんめやく三万四千キロ)。
「九千かんだよ。おい。みんな。」
団長だんちょうさん。さあこれからばんまでに四千五百貫目かんめ、石をひっぱってください。」
「さあ王様の命令めいれいです。引っぱってください。」
 今度は、とのさまがえるは、だんだん色がさめて、あめ色にすきとおって、そしてブルブルふるえてまいりました。
 あまがえるはみんなでとのさまがえるをかこんで、石のあるところへつれて行きました。そして一貫いっかん目ばかりある石へ、つなをむすびつけて
「さあ、これをばんまでに四千五百運べばいいのです。」といいながらカイロ団長だんちょうかたつなのさきを引っかけてやりました。団長だんちょうもやっと覚悟かくごがきまったと見えて、持っていた鉄のぼうを投げすてて、目をちゃんときめて、石を運んで行く方角を見さだめましたがまだどうもほんとうに引っぱる気にはなりませんでした。そこであまがえるは声をそろえてはやしてやりました。
「ヨウイト、ヨウイト、ヨウイト、ヨウイトシャ。」
 カイロ団長だんちょうは、はやしにつりこまれて、五へんばかり足をテクテクふんばってつなを引っぱりましたが、石はびくとも動きません。
 とのさまがえるはチクチクあせを流して、口をあらんかぎりあけて、フウフウといきをしました。まったくあたりがみんなくらくらして、茶色に見えてしまったのです。
「ヨウイト、ヨウイト、ヨウイト、ヨウイトシャ。」
 とのさまがえるはまた四へんばかり足をふんばりましたが、おしまいのときは足がキクッと鳴ってくにゃりとまがってしまいました。あまがえるは思わずどっとわらいだしました。がどういうわけかそれから急にしいんとなってしまいました。それはそれはしいんとしてしまいました。みなさん、このときのさびしいことといった
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わたしはとても口ではいえません。みなさんはおわかりですか。ドッといっしょに人をあざけりわらってそれからにわかにしいんとなったときのこのさびしいことです。
 ところがちょうどそのとき、またもや青ぞら高く、かたつむりのメガホーンの声がひびきわたりました。
「王様のあたらしいご命令めいれい。王様のあたらしいご命令めいれい。すべてあらゆるいきものはみんな気のいい、かあいそうなものである。けっしてにくんではならん。以上いじょう。」それから声がまたむこうのほうへ行って「王様のあたらしいご命令めいれい。」とひびきわたっております。
 そこであまがえるは、みんな走りよって、とのさまがえるに水をやったり、まがった足をなおしてやったり、とんとんせなかをたたいたりいたしました。
 とのさまがえるはホロホロ悔悟かいごのなみだをこぼして、
「ああ、みなさん、わたしがわるかったのです。わたしはもうあなたがたの団長だんちょうでもなんでもありません。わたしはやっぱりただのかえるです。あしたから仕立屋をやります。」
 あまがえるは、みんなよろこんで、手をパチパチたたきました。
 次の日から、あまがえるはもとのようにゆかいにやりはじめました。

宮沢みやざわ賢治けんじ「カイロ団長だんちょう」)
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