a 長文 11.1週 tu
「ごはんですよ。」
キッチンから、お母さんの声がしました。ソースを煮込むにこ ので、そのにおいでとっくにメニューはわかっています。だから本当は勉強していることになっているけれど、ぼくは気もそぞろで、今か今かと部屋のドアを開けて待っていたのです。
 和食、中華ちゅうか、洋食、エスニック、日本では外国に行かなくても、各国かっこく料理りょうりが楽しめます。お店で食べるだけでなく、いろいろな食材しょくざいが売られているので、家でも食べることができます。なんて幸せなのだろうと、ぼくはごはんのたびに思います。
 ぼくが特にとく 好きす なのは、イタリアンです。オリーブオイルとガーリックの香りかお や、トマトの酸味さんみ複雑ふくざつなハーブの味わいなどがぼくの五感を刺激しげきします。中でもパスタるい特別とくべつで、何もない時は、めんをゆで、オリーブオイルとパルメザンチーズだけで食べられるくらいです。
 今夜は、野菜やさいもたっぷり入れたスペシャルミートソースです。ぼくは、フォークにスパゲティを巻きま つけながら、うっとりと、
「どうしてこんなにおいしいのかなあ。本当に毎日でも食べたいよ。」
と言いました。
 すると、
啓介けいすけは、お母さんのおなかにいるときから、スパゲティが好きす だったからね。」
 実はこの話は、毎回繰り返さく かえ れるのですが、お母さんは話したことなど、すっかり忘れわす て、まるでそれが初めてはじ  のようにいつも不思議ふしぎそうに語ります。
「お母さんはずっと和食とうだったのに、どういうわけか、啓介けいすけがおなかにいるとき、調子が悪くてもミートスパゲティだけは食べられたの。毎日でもいいくらいに。」
 そこで決まって、妹ののり子が、
「その話、何回も聞いた。」
と言います。
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 半分くらい食べた時点で、お母さんが立って、おかわりの分のめんをゆで始めます。ぼくは、たくさん食べるので、二回に分けないとめんが伸びの てしまうからです。
「アル・デンテでお願いねが ね。」
ちょっと生意気に、そうオーダーします。
 ぼくは、ちょっと固めかた のゆであがりが好みこの です。最初さいしょは、柔らかいやわ   ものだと思っていたのですが、いとこのお姉ちゃんといっしょにビストロに行った時、「絶妙ぜつみょうな歯ごたえ」のアル・デンテという状態じょうたい最高さいこうなのだと教えてもらったのです。
 友だちに人気があるのは、焼肉やきにく、お寿司すし、カレーというラインナップで、イタリアンなどという子はあまりいません。でも、本当においしいので、いつかイタリアンシェフになって、子どもにも人気のあるお店を作りたいと思っています。そんなことを考えながら、ぼくはおかわりしたお皿を両手で受け取りました。

(言葉の森長文ちょうぶん作成さくせい委員会 φ)
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