1「くッくッくッ。」
とかしらは、笑いが腹の中からこみあげてくるのが、とまりませんでした。
「これで弟子たちに自慢ができるて。きさまたちが、ばかづらさげて、村の中をあるいているあいだに、わしはもう牛の仔をいっぴき盗んだ、といって。」
2そしてまた、くッくッくッと笑いました。あんまり笑ったので、こんどは涙が出てきました。
「ああ、おかしい。あんまり笑ったんで涙が出てきやがった。」
ところが、その涙が、流れて流れてとまらないのでありました。
3「いや、はや、これはどうしたことだい、わしが涙を流すなんて、これじゃ、まるで泣いてるのと同じじゃないか。」
そうです。ほんとうに、盗人のかしらは泣いていたのであります。――かしらは嬉しかったのです。4じぶんは今まで、人から冷たい眼でばかり見られてきました。じぶんが通ると、人々はそら変なやつが来たといわんばかりに、窓をしめたり、すだれをおろしたりしました。5じぶんが声をかけると、笑いながら話しあっていた人たちも、きゅうに仕事のことを思いだしたように向こうをむいてしまうのでありました。6池の面にうかんでいる鯉でさえも、じぶんが岸に立つと、がばッと体をひるがえしてしずんでいくのでありました。あるとき猿回しの背中に負われている猿に、柿の実をくれてやったら、一口もたべずに地べたにすててしまいました。7みんながじぶんを嫌っていたのです。みんながじぶんを信用してはくれなかったのです。ところが、この草鞋をはいた子どもは、盗人であるじぶんに牛の仔をあずけてくれました。じぶんをいい人間であると思ってくれたのでした。8またこの仔牛も、じぶんをちっともいやがらずおとなしくしております。じぶんが母牛ででもあるか
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