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 カもハエと同じ、二まいばね昆虫こんちゅうです。これも新しい虫で、成虫せいちゅうが地上を飛びまわると    のに、幼虫ようちゅうは水の中の生活です。だいたい、動物は、水中生活から陸上りくじょうへと移っうつ てきたものです。昆虫こんちゅうも進化が進むほど、陸上りくじょう生活をするものになります。その中で、もう一度、幼虫ようちゅうが水の生活にもどったことになりますから、カはよほど生活の場がなかったのでしょう。しかも、小さな体で短い一生ですから、ヒトの血を吸わす ないかぎり、まったく目につかない昆虫こんちゅうですんだはずです。
 血を吸うす カはメスです。オスは血を吸わす ず、にたまった水を吸っす たり熟しじゅく 果物くだものえき吸うす だけです。メスはたまご発達はったつさせたり、たまご産むう 時、水の上に浮かべるう   たまごがばらばらにならないように、たまごをくっつけるために、動物の血液けつえき利用りようするのです。あの小さな体ですから、一ひきのカが吸うす 血のりょうはわずかです。
 それでも刺ささ れれば不快ふかいですから、追いはらわれます。まして、ヒトからヒトへ血液けつえき吸うす たびに、病原体を持っていたヒトのウイルス(日本脳炎にほんのうえんウイルスとかマラリア原虫)などを媒介ばいかいするとなれば、それがコガタアカイエカやハマダラカにかぎられるといってもカ全体がわる者にされてしまいます。じっさいには血を吸わす ないカもいますし、ヒトとまったく関係かんけいのないカのほうが多いのです。ユスリカのように生物学の実験じっけん材料ざいりょうに使われるものさえいるのです。
 ところで、動物の血液けつえきは体の外にでると、すぐ固まっかた  て、流れでるのをふせぐようになっています。小さなカが口で刺しさ た時、血液けつえき固まっかた  てしまうと、口がつまってしまいます。そこで、カは、血液けつえき溶かすと  物質ぶっしつを持っていて、これを混ぜま 吸うす のです。カに刺ささ れたあとがかゆいのは、この物質ぶっしつがヒトの体の中にのこり、じゃまをするからです。
 かゆいので、かけば、それだけ散らばりち   ますから、よけいかゆ
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くなります。カの方はじゅうぶんに血を吸うす と、このえきもださなくなり、飛びと さりますから、とちゅうでたたかずに血をわけてやったほうがかゆみは少ないのです。それまでがまんできない場合のほうが多いのですが……。
 カを研究している人たちは、一日のうちに一回、カのカゴの中にうでを入れ、なん百ひきものカに血を吸わす せます。それでもヒトにはなにも起きません。病気のもとがないかぎり、カは、けっして、こわい虫でもなんでもありません。恐ろしいおそ   のはよごれた環境かんきょうのほうでしょう。
 ところで、あの小さなカが飛んと でいる時には、ブーンという耳ざわりな音がします。夏の夜、ているところでは気になる羽音ですが、あれは仲間なかまに自分の場所を知らせる音です。メスがえさを求めもと 飛ぶと 羽音をたよりに、オスがやってきて交尾こうびします。同じような振動しんどう音の音叉おんさをならすと、これにオスがいっぱい寄っよ てきます。また、ヒトにかぎらず動物が呼吸こきゅう排出はいしゅつする炭酸たんさんガスは、カをひきつけます。ドライアイスのけむり炭酸たんさんガスですから、これでカを集める方法ほうほうもあります。

 (「いい虫わるい虫」奥井一満 日本少年文庫より)
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