a 長文 6.3週 ta
怪我けが功名こうみょう

 怪我けが」はきずのことなんだけど、ここでは、あやまちとか過失かしつの意味をさすんだ。「功名こうみょう」はてがらとかよい結果けっかのこと。つまり、失敗しっぱいをしたのにそれがかえってよい結果けっかになった、ということ。また、なんの気もなくやったことが、たまたまよい結果けっかになった、ことでもある。
 ――Oさんは、でかけようとして玄関げんかんをでた。バス停  ていの近くまでいったところで、財布さいふをわすれたことに気づいた。あわてて家にもどり、財布さいふをもってでてきたが、バスはいったあとだった。つぎのバスは、十五分たたないとこない。「だいじな約束やくそくなのに、これじゃ、おくれてしまう」
 Oさんは、わすれ物したことをぼやいていた。つぎのバスに乗って、交差点こうさてんまできた時だ。パトカーやら救急車きゅうきゅうしゃがきて、大さわぎだった。まどから見たOさんはびっくりした。乗りおくれたバスがダンプカーと衝突しょうとつしている。けが人もでたようだった。
 「いやあ、よかったあ。もしわすれ物をしていなければ、あのバスに乗って。いまごろ……。」Oさんは、ほーっと大きな息をついた。
 こんなできごとを「怪我けが功名こうみょう」というんだ。
 ドライ・クリーニングの方法ほうほうを世界ではじめて見つけたのも、さいしょは失敗しっぱいからだった。見つけた人は、フランス・パリの仕たて屋、ジョリー・ベランさんだ。ドライ・クリーニングとは、水を使わないで、物質ぶっしつをとかす液体えきたいを使ってせんたくする方法ほうほうだ。一八四八年のある日、ベランさんはテーブルのランプをひっくり返してしまった。ランプのオイルがテーブルにこぼれ、奥さんおく  がせんたくしたばかりのテーブルクロスを、ひどくよごしてしまった。
「まいったなあ。うちのやつが帰ってくるまでに、きれいにしておこう。」
 べランさんは、よごれたテーブルクロスを手にとった。見ると、オイルがこぼれた方がまっ白で、きれいになっている。これはどういうことか。べランさんの頭に、ひらめくものがあった。
 333231302928272625242322212019181716151413121110090807060504030201 


「きっと、ランプオイルには、ぬのをきれいにする力があるのだ。」
 それからべランさんは、実験じっけんをくり返し、クリーニングの方法ほうほうをマスターしたのだ。そして仕たて屋をやりながら、ドライ・クリーニングのしごともうけてやるようになった。
 テーブルクロスにオイルをこぼしたばかりに、ベランさんはとっても大きな発見をしたのだ。

 「常識じょうしきのことわざ探偵たんていだん」(国松くにまつ俊英としひでちょ フォア文庫)より
 666564636261605958575655545352515049484746454443424140393837363534