a 長文 5.3週 ta
急がばまわれ

 いそぐ時には、少しくらい危険きけんがあっても、近道をとおりたくなる。けれどそれが失敗しっぱいする原因げんいんになる。だから、時間がかかってめんどうでも、安全な道やたしかな方法ほうほう選んえら だ方が、けっきょくはとくなことになるんだ。
 ことわざのもとになったのは、平安時代に源俊頼みなもとのとしよりが作ったこんな和歌だ。
 武士もののふ矢馳やばせの船ははやくとも急がばまわれ瀬田せたの長橋
 歌の意味は、大津おおつへいくのには、びわ湖の岸の矢馳やばせからでるふねに乗っていけばはやい。でもいそぐのならふねにのらず、湖岸の道をとおり瀬田川せたがわの橋を渡っわた りくの道をいった方がいいよ、というんだ。
 矢馳やばせというのは地名で、矢橋とも書く。滋賀しが草津くさつ市のびわ湖の岸のあたりのことだ。古くからここには、大津おおつまでの渡し舟わた ぶね便びんがあったんだ。りくの道をいくと、びわ湖の南岸をぐるっとまわり、瀬田川せたがわの長い橋を渡らわた なければならない。かなり時間がかかる。それにくらべ、湖上をいけば近道になる。むかいの大津おおつまで直線距離きょりでいくから、うんとはやかったんだ。
 しかし渡し舟わた ぶねでいくのは、いろいろ危険きけんがあった。ちょっと強い風が吹いふ たりすると、流されてなかなか大津おおつにつけない。また、このふねは小さなものだったから、大きな波にかんたんに転ぷくすることもあったんだ。いそぐのでふねに乗ったのに、大津おおつにつけずひき返したり、ふねがひっくりかえっておぼれ死んだり、こわい目にあう人がたくさんいた。
 この歌の中で「急がばまわれ」のことばだけがひろまっていき、ことわざとしていまものこっているんだ。これは、さいしょは道についていったんだけど、その後は生活のいろんなことについてもいわれるようになったんだ。
 だれでも、少しでもはやくしごとをすませたいから、ついはやくできる方法ほうほうをやろうとする。でもいそいでやろうとすれば、はや
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くやることばかりに気をとられて、一つ一つたしかめたり、ゆっくり考えたりしない。その結果けっか、やり方をまちがえたり、とんでもない失敗しっぱいをすることになるんだ。
 たとえば、テストがそうだね。ぼくは、学生の時に「急がばまわれ」のことわざをわすれていたので、なん度も失敗しっぱいしたよ。テストを時間内にはやくやろうといそぐあまり、問題をしっかり読まずに答えを書くことがあったんだ。はやくできて得意とくいになって提出ていしゅつしたのはいいけど、十問のうち正しい答えははんぶんもなかった。それなら、問題をていねいに読んで、よく考えてたしかな答えを書いていった方がよかったんだ。七問しか答えが書けなかったとしても、正解せいかいだったらその方がいいものね。

 「常識じょうしきのことわざ探偵たんていだん」(国松くにまつ俊英としひでちょ フォア文庫)より
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