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 ミイラ取りがミイラになる

 ミイラを取りにいった人が、目的もくてきをはたせずに、自分もそこで死んでミイラになってしまうこと。そこから、帰ってこない人をつれもどしにいった人が、自分もそこにとどまってしまって、帰ってこないことをいうよ。また、相手を説得せっとくしようとした人が、かえって相手とおなじ考えになってしまう、という意味にもなる。
 「ミイラ」って知ってるよね。乾燥かんそうしたまま、長いあいだ元の形をたもった死体のことだ。死体の水分が、五〇パーセント以下いかになるとできる。高い温度で乾燥かんそうした場所とか風とおしのいい場所の死体は、ミイラになりやすいんだって。
 古代エジプトでは、人工てきにミイラを作った。王様などが死んで三千年たつと、その人の霊魂れいこんが肉体にもどってきて死んだ人は復活ふっかつすると信じしん られていたんだ。だから、死んだ王様はかならずミイラにした。死者が旅をしているあいだも、王様らしく生活するため、王族やけらいはもちろんのこと、愛犬あいけんまでミイラにしたんだよ。東アフリカのブガンダ王国(げんウガンダ共和きょうわ国)、オーストラリアの原住民げんじゅうみん、アメリカインディアンなども、死者のミイラ作りをやったよ。日本では、岩手県の中尊寺ちゅうそんじにある藤原清衡ふじわらのきよひらのミイラが有名だ。
 中世から十八世紀せいきのヨーロッパでは、このミイラが〈医薬品〉としてもてはやされた。ミイラをくだいてこなにしたものを、けがした人や病気の人にのませると、とてもききめがあるといわれた。ミイラ作りには、瀝青れきせい(アスファルト、石油、天然てんねんガスなどの炭化水素すいそ化合物をまとめていった言葉)など炭化水素すいその化合物が使われているので、万病にきく薬になるとされたんだ。
 そのうち、ききめは「死体自身」にあるといわれ、重罪じゅうざい人や自殺じさつ者の死体をとってきて、にせの「ミイラ」を作るようになった。でもね、ほんとは「ミイラ」には医薬品としてのききめはないんだって。医師いしたちがなんども警告けいこくしたけど、ミイラの貿易ぼうえきや薬の販売はんばいは十八世紀せいきまでつづけられたんだ。
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 日本には、十六世紀せいきに薬品〈ミルラ〉として輸入ゆにゅうされた。打ち身やきずに、この薬をのむととてもききめがあると、古い本にも書いてある。このミルラ(ポルトガル語)がなまって、ミイラという語になった。
 ミイラは高価こうかな薬品だ。見つけて手に入れると、たくさんお金がもうかる。そのため、ヨーロッパでも日本でも、危険きけんを知りながら「ミイラ取り」にいった人がたくさんいたらしい。たとえばエジプトでは、ピラミッドのおくまではいって、そのままもどれなかった人がたくさんいた。日本でも、はかの深いあなにはいりこんで、でられずに死んだ人が多かったという。ことわざは、そんなところからうまれたと思われるよ。

 「常識じょうしきのことわざ探偵たんていだん」(国松くにまつ俊英としひでちょ フォア文庫)より
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