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 かれはすぐ、プリンストンの名物めいぶつ教授きょうじゅになりました。世界せかいてきな大科学しゃということもありますが、そのすなおで、あたたかい性格せいかく教授きょうじゅ仲間なかまや学生たちをとらえたのです。
 博士はかせは、決まっき  講義こうぎは行いませんでしたが、研究けんきゅう室にくる学生たちを、たいへん親切に指導しどうしました。
 学生ばかりではありません。たのまれれば、小学生の勉強べんきょうだって見てあげたのです。
 じっさい、プリンストンの町には、ある十さいの女の子が毎日のようにアインシュタイン家に行って、博士はかせに算数の宿題しゅくだいを教えてもらったという話が残っのこ ています。
「あんなえらい先生に、宿題しゅくだいを見てもらうなんて!」
 女の子のお母さんが、びっくりしておわびに行くと、博士はかせは、
「とんでもない。わたしのほうこそ、おじょうさんから教わることが、たくさんあったんですよ。」
といったそうです。
 ライオンのたてがみのような白髪はくはつをなびかせ、町を散歩さんぽする博士はかせを、だれもがあたたかい目で見守りみまも ました。
 アインシュタイン博士はかせは、この町でだれからも愛さあい れうやまわれました。ただひとつ、あまりにも身なりみ  をかまわないことだけは、人々のじょうだんのたねになりました。古いセーターに、サンダルばき。くつしたをはかず、さんぱつも大きらい。
 こんな博士はかせに、「すこし服装ふくそうに気をつかわれたらどうですか。」と、だれかが忠告ちゅうこくすると、「肉を買って、包みつつ 紙のほうがりっぱだったら、わびしくないかね。」と、やりかえされてしまいました。人は外見ではない、ということでしょう。
 しかも、人生というのは限らかぎ れています。ものは、すべて必要ひつよう最低限さいていげんにきりつめ、おしゃれをする時間があれば、一分でも研究けんきゅうのほうにまわしたい――アインシュタイン博士はかせは、心からそう思っていたのです。
(「アインシュタイン」岡田おかだ好恵よしえちょより)
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