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 パストゥールは狂犬病きょうけんびょう研究けんきゅうからはじめました。年に千人くらいの人しか死なし ないのですが、狂犬病きょうけんびょうは、おそろしい病気びょうきです。
 なぜこの病気びょうき選んえら だかというと、狂犬病きょうけんびょうはだれもが疑わうたが ない伝染病でんせんびょうであったことと、この病気びょうきが人間の病気びょうきである前に犬、オオカミ、キツネ、ねこ、ウサギなどの動物どうぶつ病気びょうきだったからです。もちろん人間の体をつかって実験じっけんすることなどできませんが、狂犬病きょうけんびょうだと動物どうぶつ使っつか 実験じっけんができるのです。
 しかしこの選択せんたくによって、大きな問題もんだいにぶつかることになりました。狂犬病きょうけんびょう原因げんいんとなっている微生物びせいぶつは、顕微鏡けんびきょうですら見ることができないほど小さなものだったのです。それはろ過 かせいのウイルスとよばれるもので、つまり、もっとも目のこまかいろ紙も通ってしまうウイルスなのです。
 パストゥールは病原菌びょうげんきんを見ることができないまま研究けんきゅうをつづけることになりました。もっと悪いわる ことには、このウイルスは、大きな細菌さいきんのようにじゃがいもやスープや尿にょうの中で培養ばいようすることができません。動物どうぶつの体だけが繁殖はんしょくできる場所ばしょでした。あきらめたほうがりこうかもしれません。でも、「幸運こううん大胆だいたんな人にほほえむ」ということばをみなさんはもう知っていますね。
 パストゥールは犬小屋こやをつくって、つぎつぎと犬に狂犬病きょうけんびょうをうつしていきました。狂犬病きょうけんびょうにかかった犬ののうをすこしとっては、つぎの犬ののう注射ちゅうしゃするのです。
 十日後、この犬はあわを吹いふ て、はげしくほえはじめ、そしてもがき苦しんくる  で、死んし でいきました。そのあとは、今までの方法ほうほう採用さいようしました。微生物びせいぶつ培養ばいようして、ひとつの培養基ばいようきから、培養基ばいようき微生物びせいぶつをうつしていくあのやり方です。こうして、狂犬病きょうけんびょう培養基ばいようきをいつでも手に入れることができるようになったのです。
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 つぎに、ウイルスを弱める方法ほうほうを見つけなければなりません。がいのないものにするのですが、病気びょうきから動物どうぶつの体を守るまも ことができるものでなければなりません。かれは、むずかしいけれども効果こうかてき方法ほうほうをとりいれました。犬のウイルスをサルにうつすと、狂犬病きょうけんびょうがすこし軽くかる なるのです。このサルから病原びょうげんウイルスをとって、またべつの犬にうつします。するとこの犬は毒性どくせいの強い狂犬病きょうけんびょうのウイルスに対して たい  免疫めんえきになります。反対はんたいに犬の狂犬病きょうけんびょうをウサギやモルモットにうつすと、もっと毒性どくせいの強い狂犬病きょうけんびょうになりました。
 パストゥールはまもなく、自分の実験じっけん室で、とても弱いものからたいへん危険きけんなものまで、いろいろな強さの狂犬病きょうけんびょうウイルスを持つも ことになりました。一八八四年八月、公式こうしき委員いいん会でパストゥールは、毒性どくせいを弱めた狂犬病きょうけんびょうウイルスで免疫めんえきになった二十三ひきの犬は、猛毒もうどくなウイルスを注射ちゅうしゃしても狂犬病きょうけんびょうにかからず、免疫めんえきにされなかった犬は、ほとんど狂犬病きょうけんびょうにかかったことを説明せつめいしました。
 見えないウイルスを自由じゆうにあやつることが可能かのうになったこの研究けんきゅうは、画期的かっきてきなものでした。
 
 「細菌さいきん戦うたたか パストゥール」(ブラーノ=ラトゥール)偕成社かいせいしゃ
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