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 そのころ、パストゥールは、ニワトリのコレラを研究けんきゅうしていました。かれは犯人はんにんが8の字のかたちをした細菌さいきんであることをつきとめていました。毎日準備じゅんびしたスープの中で、この細菌さいきん培養ばいようすることができたからです。
 一八七九年の夏の休暇きゅうかをパストゥールは故郷こきょうのアルボアですごしました。パリに帰ってきたとき、培養ばいようえきのことをすっかり忘れわす ていたことに気がつきました。何週間も放っほう たままにしていたのです。かれは助手じょしゅにそれをすてるように命じめい ましたが、ふと思いなおしてともかくニワトリに注射ちゅうしゃしてみるようにいいました。細菌さいきんはひょっとしたら、まだ毒性どくせいをもっているかもしれません。
 ところがどうでしょう。ニワトリは、コレラにかかりませんでした。実験じっけんをくりかえして、こんどは新しいとても強力な培養ばいようえき注射ちゅうしゃしてみました。するとおどろいたことに、ほかのニワトリは病気びょうきになったのに、古い培養ばいようえき注射ちゅうしゃしておいたニワトリは、病気びょうきにかかりませんでした。
 長いあいだにやしなわれた直感ちょっかんと、知識ちしきと、それに偶然ぐうぜん味方みかたして、パストゥールはその生涯しょうがいでもっとも重大じゅうだい発見はっけんをすることになったのです。
 パストゥールは、ジェンナーの天然痘てんねんとうのワクチン接種せっしゅから百年ののちに、新しいかたちの予防よぼう接種せっしゅほう発見はっけんしました。古くなったコレラきん培養ばいようえき注射ちゅうしゃされたニワトリは、この病原菌びょうげんきんのはいっている新しい培養ばいようえき抵抗ていこうすることができたのです。この発見はっけんによって、医学いがく全体ぜんたいが新しく生まれかわることになりました。
 まず獣医じゅういたちがパストゥールの仕事しごと絶賛ぜっさんしました。
 ニワトリコレラを克服こくふくしたかれは、ふたたび炭疽たんそびょう興味きょうみをしめしました。ニワトリコレラで幸運こううんがかれにあたえてくれたことを、こんどは自分の力でやってみるのです。しっかりとした方法ほうほうで、培養ばいようえき毒性どくせいをやわらげようとしました。
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 炭疽たんそきんのはいっている培養ばいようえきを、摂氏せっし四十三で八日間加熱かねつしたあとならば、この培養ばいようえきひつじ、ウサギ、モルモットに注射ちゅうしゃしても、動物どうぶつ発病はつびょうしません。これらの動物どうぶつの体は、弱められた細菌さいきんによって予防よぼうされたのです。この弱められた細菌さいきんは、いわば、もとの仲間なかまをうらぎって体の味方みかたをする、二じゅうスパイの役割やくわりをえんじました。ですから、あとになって「猛毒もうどく」な炭疽たんそきん注射ちゅうしゃしても、平気へいきでいることができるのです。
 こうしてパストゥールは、動物どうぶつ炭疽たんそびょうのワクチンを接種せっしゅする方法ほうほうを見つけだしました。
 
 「細菌さいきん戦うたたか パストゥール」(ブラーノ=ラトゥール)偕成社かいせいしゃ
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