伝書バトは、信頼のおける郵便配達員のようです。伝書バトに届けてもらう手紙は、足につけた小さな筒の中に入れたり、背中にくくりつけたりします。伝書バトは、託された手紙を、遠く離れた相手のもとへ届けることができます。二百キロメートルぐらいの距離を飛ぶのが普通ですが、時には千キロメートルも離れた場所まで飛ぶこともあります。千キロメートルというと、だいたい東京から北海道、又は東京から九州ぐらいまでの距離になります。これほど離れた相手先に、間違わずにたどりつける能力にはおどろきます。
しかし、こんなに優秀な伝書バトにも弱点があります。それは、いつも同じ届け先にしか手紙を運べないことと、あまり重いものは運べないことです。伝書バトがめざすのは、手紙のあて先に書かれた住所ではなく、自分が生まれたハト小屋です。つまり、伝書バトの手紙の配達は、帰巣本能を利用したものなのです。
地図も持たずに何百キロも離れた地点に正確にたどりつくのは、人間にとっては、たいへん難しいことです。伝書バトは、なぜ自分の巣のある場所に迷わずに帰ることができるのでしょう。かつては、地上に見える目印と、太陽の場所、それに地球の磁気をたよりに飛び、夜になると星を目印に進むのだろうと言われてきました。最近の研究によると、伝書バトの方向感覚は、すぐれた嗅覚のおかげでもあると言われています。
遠くからでも、迷わずに自分の巣に帰ることができるハトの性質を、大昔から人間は知っていました。古代エジプトでは、漁船が伝書バトを使って、漁の成果を海から陸に知らせていたそうです。一度放たれた伝書バトは、休むことなく何百キロも飛び続けるため、電話やメールがない時代は、最も速い通信手段でした。
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