1文章を読んでいて、いっていることが全面的に肯定されるのではない、また、当面必要なことでもないけれども、じっとしていられないような興奮を覚えることがあって、そういうとき、「刺激的」という形容詞が使われる。2「刺激的」とはどういうことか。
かりに、本を円周のようなものだと考えてみる。読者はゆっくりその円に添って走り出す。だんだん速度が加わってくると、はじめのように円に即しているのが困難になり、カーヴでは外へ飛び出そうとするかもしれない。
3「刺激的」とは、そういうカーヴをたくさんもった本ということになろう。
読者が予期するようなところへ展開するなら、快感はあっても、刺激はすくない。4逆に、読者の意表をつくようなことがつぎつぎあらわれると、読者はその都度、タンジェントの方向へ飛び出そうとして、そこに緊張をかもし出す。それが刺激的と感じられる。
脱線しかけるときに創造のエネルギーが生まれる。5直線レールの上を静かにおとなしく走っていれば脱線の危険もないかわり、軌道の外へ出たくても出られない。無理なカーヴを大きなスピードで走り抜けようとすれば脱線するかもしれないが、そこに、新しい道のできるチャンスもある。6安全な軌道を選ぶか、危険なカーヴの多い道を選ぶかは好みにもよるが、発見に便利なのは脱線の可能性の大きなルートを走ることである。
かりに大きなカーヴがあってもスピードがなければ脱線しない。7安全運転だけを目標とするのなら、脱線しないのは喜ぶべきことだが、新しい道をつくるには、軌道の上だけ走っていたのでは話にならない。無理なカーヴなら脱線して、より合理的な近道を発見することができるはずである。8脱線するにはスピードを出している必要がある。これは自動車の運転とは違う。
寝ころがって読んだときに、たいへんおもしろいと思ったから、
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