その翌日であった。母親は青葉の映りの濃く射す縁側へ新しい茣蓙を敷き、俎板だの包丁だの水桶だの蠅帳だの持ち出した。それもみな買い立ての真新しいものだった。
母親は、自分と俎板を距てた向こう側に子供を坐らせた。子供の前には膳の上に一つの皿を置いた。
母親は、腕捲りして、薔薇いろの掌を差し出して手品師のように、手の裏表を返して子供に見せた。それからその手を言葉と共に調子づけて擦りながら云った。
「よくご覧、使う道具は、みんな新しいものだよ。それから拵える人は、おまえさんの母さんだよ。手はこんなにもよくきれいに洗ってあるよ。判ったかい。判ったら、さ、そこで――」
母親は、鉢の中で炊きさました飯に酢を混ぜた。母親も子供もこんこん噎せた。それから母親はその鉢を傍らに寄せて、中からいくらかの飯の分量を掴み出して、両手で小さく長方形に握った。
蠅帳の中には、すでに鮨の具が調理されてあった。母親は素早くその中からひときれを取り出してそれからちょっと押さえて、長方形に握った飯の上へ載せた。子供の前の膳の上の皿へ置いた。玉子焼鮨だった。
「ほら、鮨だよ。おすしだよ。手々で、じかに掴んで喰べても好いのだよ」
子供は、その通りにした。はだかの肌をするする撫でられるようなころ合いの酸味に、飯と、玉子のあまみがほろほろに交ったあじわいが丁度舌一ぱいに乗った具合――それをひとつ喰べてしまうと体を母に拠りつけたいほど、おいしさと、親しさが、ぬくめた香湯のように子供の身うちに湧いた。
子供はおいしいと云うのが、きまり悪いので、ただ、にいっと笑って、母の顔を見上げた。
「そら、もひとつ、いいかね」
母親は、また手品師のように、手をうら返しにして見せた後、飯を握り、蠅帳から具の一片れを取りだして押しつけ、子供の皿に置
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