1一番わかりやすいのは、スズメバチと熊の関係である。スズメバチにとって熊は天敵だ。せっかく築いた巣を壊し、中の蜂蜜やら幼虫を台無しにしてしまう。2スズメバチ自体は、強力な社会性と毒による攻撃力をもっているため、実質的な天敵は熊以外には見当たらない。巣を破壊するといった無謀な行動を起こすのは熊くらいのものだ。3スズメバチとその唯一の天敵である熊との攻防は、おそらく何十万年以上ものあいだ続いているため、スズメバチは熊のような黒っぽい体色に対しては、攻撃をしかける習性が選択されたらしい。4山菜採りに行った黒っぽい服装の人や頭の黒い人間がスズメバチに襲われるのは、その習性のためというのがもっぱらの説だ。造成地では人間がブルドーザーでスズメバチの巣を破壊しているが、せいぜいこの四〇〜五〇年のことだ。5スズメバチがブルドーザーを目掛けて攻撃するといった習性を獲得するには、何万年もの時間が必要であるに違いない。
6スズメバチと熊の例を見て「異種の動物のコミュニケーションにおいて色に意味がある」と気づいたのは、人間が熊と見誤られて実際に襲われているからである。もしそうでなければ、そのような関係性にはまったく気がつかなかったかもしれない。7仮にスズメバチが熊を攻撃しているのを目撃しても、スズメバチの巣を壊した熊が襲われているのだろうとしか見えないだろう。8スズメバチが人間を襲うといった、本来の行動とは違う誤った行動をかいま見せることにより、われわれはその特殊な関係性にはじめて気づかされる。
9おそらく、この広い地球上には生物種同士の攻防に「色が重要な意味をもつ」例が山ほどあるに違いない。ただ、人間がそのような局地紛争には気がついていないだけだ。色のもつ意味は、動物のライフスタイルによってまったく異なる可能性がある。0この点については、残念ながらわれわれはどのような工夫をしても、その実
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