1杉の木は樹幹がまっすぐで、気持ちがいい。見ているだけで、私の心はいつもすがすがしくなる。枝打ちや間伐など、手入れをする人の労苦も尊い。
黒々とした大地に深く根を張り、大空高くへと曲がりもくねりもせずに伸びている幹。2たてに筋の入った褐色の肌に目を当てると、自然に上へ上へとひきあげられていく。もっこりと茂る緑は、松や落葉松よりずっと厚味があって目を包んで休ませてくれ、さらにはるかに高い梢は、さわやかな風を呼んでいる。3年若い杉の木の梢は、先のとがった円錐形だが、風雪に耐えて何百年も生きてきた老大木の梢はもうとがってはおらず、樹冠がおだやかにまあるくなっている。それは威厳のある古老がふと洩らす微笑のようだ。
4樹幹の肌の色がいい。幅広くたてにすうっとはがすことのできる樹皮は、引っ張ってみると実に強くて丈夫だから、古来、屋根を葺いたり、垣根に張ったりした。鋭い樹脂の香りも、胸の底まで清めてくれるような感じがする。5檜ほどの香気ではないけれども、杉の香りは庶民的でいい。
ちょうどドイツ人や北欧の人びとにとって、樅の木が宗教的なほどに大切で親しいものであるように、私たち日本人の生活に杉の木は切っても切れぬ縁がある。6何よりも木の形が美しい。木材としての利用価値が高い。日本各地でよく育つ。日本の樹木のなかでいちばん背が高くなり、ものによっては五十メートルにもなるし、いちばん長生きする木でもある。7鹿児島県屋久島の「屋久杉」には、樹齢二千〜六千年と推定されるものが何本もある。だから京都をはじめ全国の神社やお寺の境内には、必ずといっていいほどめでたい杉の木が大事に植えられている。
8わが国はどこに行っても杉の木がある。かつては生えていなか
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