1その広告は、次のシーンで始まる。
一対の手が、立体的な木製パズルを組み立てている。その間に、ソフトに調整された男の声が、最大の『工業社会の問題』または『ビジネス社会の問題』は、実際には『コミュニケーションの問題』だと説明する。
2ビジネスマンと企業家に朗報あり! 企業経営の潤滑化の鍵は、効率的で調和のとれた総合的なコミュニケーション・システムにある! ついにパズルが完成したのだ。ごらんなさい! なんと、世界最大の企業AT&T(アメリカン・テレフォン&テレグラム社)の社名ロゴが完成したではないか。
3画面は暗転し、白字のメッセージが浮かびあがる。
「このシステムこそ解決策だ」
そう、天空に星があるのと同じにね。
このテレビ広告は、しばらくの間、夕方の全米ニュース番組の合間に流された。4このメッセージは高度に技術的な消費社会に生きる私たちに向けて、この社会についての哲学を伝えている。コミュニケーション産業の自己投影イメージの真髄ともいうべき例で、完璧なる管理を理想像および絶対的な善として提示している。5その一方で、この企業は、自社のシステムを使うことで、『誰かと心を通わせる』ことができると主張する。AT&Tのサービスを買うことで家族の絆は強まり、友情は維持される、と。
6同社のイメージとテレビ広告は、サービスや製品を超えて、世の中を理解する方法までも売りこもうとしている。その基本的な前提は、企業中心の工業社会において、社会秩序のメカニズムを供給するのはコミュニケーション産業ということにある。7効率のよい経営管理を切望するビジネスマンの懐にせまるコンセプトだ。その一方で現代の消費社会の孤独で流動的な個人である私たちに対し、ますますつかまえどころがなくなりつつある家庭関係やコミュニティの絆を約束するのだ。
8AT&Tによって提示されたようなマス・イメージは、覚えやすい言語、信仰のシステム、共通の感性を叩きこむ回路をつくりだし現代社会の一部となる意味を私たちに説明してくれる。9それは、品物とサービスの販売と消費で定義づけられた社会、人間関係
|