1「新しさ」がマイナス価値であった時代があった。新しさは奇を衒うもの、良き古き伝統を破壊するものだとして忌避されたのである。思想の面で新しいアイディアを提出するものは非難と告発を免れがたかった。2新しい思想家はどこでもいつでも、弾圧されたし、排除されたりしたものである。政治の場面でも、現存秩序を批判し、のりこえようとする運動は、いつでも新しい運動であったが、これも破壊的なものとして可能なかぎり抑圧される。
3いつの時代でも、どんな社会においても、古さの方が価値的にプラスであって、新しさはつねにマイナス価値であった。新しいものは、古いものとの対決の中ではじめてエネルギッシュになり、前進のための生産力を獲得する。4したがって、物質的な力とも言うべき飛躍力と魅惑的力をもつ新しさの基本型は、現存秩序の体系または古い価値体系から脱出する批判的運動であるというべきであろう。
(中略)
5圧倒的な力をもつモード的・記号的新しさによって隠されているが、決して消滅しそうもない批判的新しさもある。それはいろいろの形をとって現れるが、何よりも感情的・情緒的なものが基本であろう。6エルンスト・ブロッホが書きとめてくれた「小さな白昼夢」などはその典型である。小さな子どもの小さな夢は、憧憬とよぶべきもので、それはおとぎ話の形をとって未来へとはばたく。はかなさとこわれやすさを特徴とする白昼夢は、現在の世界からの前方への脱出願望である。7そこには、世界についての感情が世界を批判している。このままではいけない、別の良き世界があるのだと、理性的でなく情緒的に判断している。情緒・感情は批判力をもちうる。
8感情や情緒は行為である。それは世界の中にあって世界を作り変える。まだないものを先取りし、この先取りによってすでに世界の外に出る。外に出ることで今の生活世界を批判する。9いっさいのユートピアは、基本的にはこの感情の行為的批判を出発点とし
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