1社会の仕組みの正しさ(倫理性)に関して多くの異なる理論が存在しているが、それらに共通していることは、各理論がそれぞれ重要とみなす何事かについては平等を要求する、という特徴である。なぜそうなのか? 2社会的なことがらに関する倫理的な根拠が妥当性をもつためには、決定的に重要とみなされるレベルで、社会のすべての構成員に対して基本的に平等な配慮がなされている必要がある。もしそのような平等性がなければ、その理論は恣意的に差別を行っていることになり、正当化されがたい。3理論というものは、多くの点で不平等を受け入れ、さらに不平等を要求することもありうる。しかし、そのような不平等が正当化されるためには、本質的なところですべての人々に平等な配慮がなされていなければならない。4また、その配慮が究極において不平等と関連していることを示す必要がある。
おそらくは、このような特徴から、倫理的な根拠が第三者からみて、潜在的にはすべての他者からみて、信頼にたるものでなければならないという要件が必要になってくる。5とくに社会の仕組みに関する倫理的な根拠については、そういえる。「なぜこのシステムなのか」という問いに対する答は、そのシステムに属するすべての人々に与えられなければならない。
6「自分の行動を正当化するためには、他の人々が理性では拒否できないことを根拠とすべきである」と、トーマス・スキャンロンは主張する。人の行動にとって、このような要件が妥当であり説得力をもつと、彼は分析している。7ロールズは「公正」という要件を基礎にして正義論を展開している。それは、人が理性的に拒否できるもの、あるいは拒否できないものとは何かを決定する枠組を提供しているとみなすことができる。同様に、より一般的な「公平さ」という要件が主張されることもある。8その場合にも、基本的に平等な配慮をするという特徴がともなってくる。このような一般的な形での理由づけは、倫理学の基礎と大いに関連している。
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