「ただいま」
「ゆたか、ちょっときなさい」
お帰りの返事もなく、呼びつけたお父さんの声は、いつもより強かった。
「お前か、猫をひろってきたのは」
居間にはいるなり、耳につきつけられた言葉に足がすくんだ。
「カラスが狙っていたから……。食べられちゃうから……」
「今から、もどしてきなさい。元のところへ……」
「……」
いやだと思った。それでも口にはだせなかった。
「お父さんは、猫の毛アレルギーなの。子供のころ、ぜんそくをわずらったことがあるの、それ、猫の毛が原因かもしれないんだって」
「友だちで、飼ってくれる人さがすから……」
「いなかったらどうするの」
そう言った、お母さんの脇で、お父さんがこっちを見ていた。にらまれているようで、目をあげられなかった。
「それまで、納屋で飼うから、自分で生きていかれるようになったら、のら猫にするから」
「聞き分けのないやつだなあ、のら猫を増やしてどうするんだ。のら猫のせいで迷惑こうむっている人間のことは、どうなるんだ」
「……」
「とにかく、うちじゃ飼えないから、元のところにもどしてきなさい。お前が悪いんじゃない、最初にすてた人間が悪いんだ。うちで育てて、のら猫を増やしたら、うちが悪者にされる。分かるな……」
「……」
もう口ごたえはできなかった。
「今からいってきなさい」
「だれか、猫の好きな人がひろってくれるかもしれないでしょ」
そう付け加えたお母さんの言葉は、声だけやさしかった。ゆたかは、言葉をうしなったままに立ち上がった。
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