1人間および動物を通して、広義のあいさつ行動は、一体どのような時に起こるものだろうか。第一に考えられるのは、個体と個体との出会いである。2互いに見知らぬ者どうしが出会う時は言うまでもなく、すでに知り合っている者の間でも、出会いがある程度の離別の後で起こった場合には、動物・人間を問わず一般にあいさつ行動が見られる。
3未知の者どうしの出会いでは、相手の素性や気持ちがわからぬことからくる不安と警戒の念が、特にあいさつ行動を要求するのである。4そこであいさつを行なうことによって、何よりもまず、相手に対して敵意、害意のないことを示し、同時に不安からくる相手の攻撃本能の発動を抑える、つまり、相手をなだめ、安心させるのである。
5人間の場合、出会いのあいさつ行為は、相手が以後仲よく共に行動してゆける仲間かどうかの、身元確認にもつながっている。そのためには、あいさつがそれぞれの社会で、文化的に慣習化されている一定の形式にしたがって行なわれることが必要となる。6この性質を強くもった、やや特殊なあいさつとしては、仁義や敵味方を暗闇で判別するのに用いられる合言葉などがあげられる。
毎日一緒に暮らしている家族の場合でも、また同じ学校や職場に通うものどうしでも、一夜明けた朝の出会いの時には、必ずあいさつをする。7社会生活を営む人間にとって、別れて時を過ごすということは、私たちが思っている以上に、他者に対する言い知れぬ不安をつのらせるものらしい。
8たしかに誰かと一緒にいるときは、その人の気持ちの変化についていきやすいし、同じ状況の下にいるわけだから、自分と相手との相互関係もわかっている。9ところがいったん離れてしまうと、その間は、二人別々の経験をすることになるため、気持ちのズレや考え方の食い違いが生じてしまう可能性がある。だからこそ
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