a 長文 9.1週 ni
「ユウって本当にロマンがないね!」
 姉にそう言われて、ぼくはぽかんと口を開けてしまった。姉のきつい言葉には慣れていたが、そんなことを言われるとはまったく予想していなかった。
 それは去年、双子ふたごの姉と二人で、夏休みの自由研究について相談していた時のことだ。僕たちぼく  は地元に伝わるおとぎ話について調べ、発表しようと考えていた。「キツネに化かされて田んぼに落っこちた」とか、「山で助けたサルがお返しに木の実を持ってきた」などという話に、姉はむねをときめかせているようだった。
 一方のぼくも、内心燃えていた。こういった話は研究のしがいがある。そう思って、「キツネやサルにそんな知恵ちえがあるはずはないから、人間どうしの出来事をたとえた話ではないか」と自分の考えを話したのだ。そうしたら、姉はいきなり怒りおこ 出してしまった。
 姉によると、「ロマンがない」のがぼくの短所だという。せっかくかわいらしい動物たちの物語を想像しているのに水を差すな、というのである。しかし、そう言われても納得なっとくはいかない。ぼくにも意地があった。結局、ぼくと姉はたもとを分かち、同じ題材で別々に発表をすることになった。
 そして夏休みが終わり、自由研究を発表する日がやってきた。出番は姉が先だ。姉は自分で書いたイラストを見せながら、キツネやサルが主役のおとぎ話を紹介しょうかいしていった。研究発表というより紙芝居かみしばい大会のようだったが、悔しいくや  けれど面白い内容になっていたと思う。
 おかげでぼくはすっかり尻込みしりご してしまった。今度は姉ばかりか、クラスのみんなに「ロマンがない」と言われるかもしれない……。だが、今さら逃げ出すに だ わけにはいかなかった。
 ぼくは勇気をふりしぼって、図書館で調べた話を発表していった。昔は道路が舗装ほそうされておらず、酔っよ た人が田んぼに転落するのはしょっちゅうだったこと。山を挟んはさ となりの村から来た迷子を、送
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り返してあげた話があること……。発表が終わったあと、担任たんにん城田しろた先生はにっこり笑って、こう言ってくれた。
「とても面白かった。ユウくんの探究たんきゅう心はすごいね。」
 その言葉を聞いて、ぼくはすっとむねのつかえがとれたような思いがした。
 確かに、ぼくは姉の言うように「ロマンがない」のかもしれない。しかしその代わりに、先生も認めみと てくれた「探究たんきゅう心」がある。それがぼくの長所だ。「短所をなくすいちばんよい方法は、今ある長所を伸ばすの  ことである」という言葉がある。ぼくは自信を持って、長所である探究たんきゅう心を伸ばしの  ていきたい。
 人間にとって、自分の長所や短所に気付かされる経験は貴重きちょうである。指摘してきしてくれる人がいるということも、ありがたいことだ。今では、城田しろた先生はもちろん、姉にも感謝している。

(言葉の森長文作成委員会 ι)
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