1「ユウって本当にロマンがないね!」
姉にそう言われて、僕はぽかんと口を開けてしまった。姉のきつい言葉には慣れていたが、そんなことを言われるとはまったく予想していなかった。
それは去年、双子の姉と二人で、夏休みの自由研究について相談していた時のことだ。2僕たちは地元に伝わるおとぎ話について調べ、発表しようと考えていた。「キツネに化かされて田んぼに落っこちた」とか、「山で助けたサルがお返しに木の実を持ってきた」などという話に、姉は胸をときめかせているようだった。
3一方の僕も、内心燃えていた。こういった話は研究のしがいがある。そう思って、「キツネやサルにそんな知恵があるはずはないから、人間どうしの出来事をたとえた話ではないか」と自分の考えを話したのだ。そうしたら、姉はいきなり怒り出してしまった。
4姉によると、「ロマンがない」のが僕の短所だという。せっかくかわいらしい動物たちの物語を想像しているのに水を差すな、というのである。しかし、そう言われても納得はいかない。僕にも意地があった。結局、僕と姉はたもとを分かち、同じ題材で別々に発表をすることになった。
5そして夏休みが終わり、自由研究を発表する日がやってきた。出番は姉が先だ。姉は自分で書いたイラストを見せながら、キツネやサルが主役のおとぎ話を紹介していった。研究発表というより紙芝居大会のようだったが、悔しいけれど面白い内容になっていたと思う。
6おかげで僕はすっかり尻込みしてしまった。今度は姉ばかりか、クラスのみんなに「ロマンがない」と言われるかもしれない……。だが、今さら逃げ出すわけにはいかなかった。
僕は勇気をふりしぼって、図書館で調べた話を発表していった。7昔は道路が舗装されておらず、酔った人が田んぼに転落するのはしょっちゅうだったこと。山を挟んだ隣の村から来た迷子を、送
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