a 長文 3.3週 ne
 月ができた原因げんいんについては、進化ろんで有名なダーウィンの息子のジョージ・ダーウィンという人が考え出した説が学会で認めみと られていました。それによると月は地球の一部がちぎれて飛び出してできたものだが、面白いことに太平洋は月が飛び出したあとだという説を立てたのです。ジョージ・ダーウィンという人は、たいへんあたまのいい人で、この月の成因せいいん説は、ただの思い付きというわけではなくて、推論すいろんにいろいろな根拠こんきょがあげられているのです。たいへんうまい説明なので当時は反論はんろんする学者もいなくて、それが決まった学説となってしまいました。ですから、わたしたちは学生の時にこういう説を教わったわけなのですが、こんな説は今ではすっかり消えてなくなってしまいました。
 地球の成因せいいんの方は、四十年ほど前に、ドイツのワイッゼッカーという人が、惑星わくせいは太陽から飛び出したのではなくて、昔、太陽系たいようけいをおおっていたガス体から固体のつぶだけが残って、それが太陽の周りをぐるぐる回っているうちに衝突しょうとつし合ってだんだんに成長して、いくつかの惑星わくせいになったという説を立てました。それで、ビュッフォンの説は消えてしまったのです。そのワイッゼッカーの学説もその後十年ほどたって、アメリカのユレーという人と、ソ連のシュミットという人が修正しゅうせいして、地球や木星などの惑星わくせいのもとになったつぶというのは、太陽系たいようけいをおおっていたつぶではなくて、太陽の引力によってつかまえられた宇宙塵うちゅうじん、つまり石ということになったわけです。
 そして、月の方も、ダーウィンの説ではなく、地球のできる時に同じような現象げんしょうで地球と一緒いっしょになってできたものだという説が、今日、定説となって、月は地球の兄弟だと考えられるようになったわけです。
 だが、こういった学説も月ロケットで、人間が月から石のサンプルを持ち帰ったり、ロケットの観測かんそく機が火星や土星まで飛んでいって、情報じょうほうを送ってきたりすると、古い説では解釈かいしゃくがつかないことだらけで、また、いずれ新しい学説が誕生たんじょうすることになるわけです。
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 こういうことは天文学、あるいは地学などに限らかぎ ず、いろいろな科学の領域りょういきで起こってもふしぎはないわけです。まだ、本当は科学は何もかも知っているわけではなくて、ほんの自然の姿すがたの一部をかじっているにすぎないのですから、いろいろと角度を変えて自然を見ているとつぎつぎと新しい発見が生まれてきます。そしてそこから新しい学説が発展はってんし、それをもとにしてまたすぐれた技術ぎじゅつ誕生たんじょうするといったことがこれからも続いていくはずです。
 今までのでき上がった科学の理論りろんとか解説かいせつとかにこだわりすぎてすべてをそれにのっとって(=基準きじゅんとして従っしたが て)考えるという傾向けいこうが強すぎますと、新しい発展はってんが起こらなくなります。古いものにとらわれずに新しい見方をする、あるいは逆転ぎゃくてんの発想という言葉がありますが、そういう考え方をしていると、案外そこから面白い発展はってんが起こるのです。
 これは科学者でなくても、一般いっぱんの方々が広く眺めなが ている観察、あるいは考え方からもみな同じ事情じじょうが生まれるはずですし、そういう点からも皆さんみな  日常にちじょう観察しているものから、新しい科学の目が生まれる、ということも十分にあり得ることだと思います。
 昔、ウェーゲナーという学者が大陸移動いどう説を提唱ていしょうしました。この人は、地質ちしつ学とか物理学とかの理論りろん基づいもと  て考えていたわけではなく、世界地図を見ておりましたらいろいろな大陸の形が、ちょうどジグソーパズルの切れ端き はしのように、寄せよ 集めると一つになってしまいそうな感じがしたことから大陸移動いどうを考えたのです。なるほど合わせてみると、南米とアフリカとは一緒いっしょになりそうですし、アメリカ大陸もユーラシア大陸も、南極大陸もみんな一つに組み合わされそうに見えます。
 そういうところからウェーゲナーは大陸は昔は一つになっていたのが、ある時から分かれて移動いどうしたのではないだろうか、地球の内部が融けと 液体えきたいでその上に固体の大陸が浮かんう  でいる、それがちぎれて、だんだん地球全体に分散したのではないだろうかと考えて、
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長文 3.3週 neのつづき
大陸移動いどう説という学説を立てたのでした。
 たいへん面白い説ですが、当時の学界では、それは単なる思いつきだということで黙殺もくさつされてしまったのです。近頃ちかごろになって、いろいろな観測かんそく技術ぎじゅつが進みますと、どうやらウェーゲナーの学説が本当であったらしいということで、プレート・テクトニクスという学説(=地球の皮膚ひふを形づくるあつさ一〇〇キロの岩板の動きを研究する学説)ができて、実際じっさいに大陸が移動いどうするのだということが、事実として認めみと られるようになったのです。そこでウェーゲナーは今たいへん高く評価ひょうかされるようになっておりますが、こういう、こだわらない自由な心で科学を論じるろん  というのも一つの進歩の道だと言えるわけです。
 そういう意味でも、皆さんみな  の自由な観察力や、考え方から思いついたことをどんどん科学者や科学界にぶつけていきますと、それは皆さんみな  にとってもたいへん楽しいことですし、科学者にとっても楽しいことになるはずです。そして、そこから、思いがけない科学の進歩も生まれるということになりますと、なんともすばらしいことであるに違いちが ありません。

さき範行のりゆき「科学ってこんなに面白い」による)
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