1「あれ? おかしいなあ。」
トースターの中には、ほかほかに温まったコロッケが入っているはずだった。確かに、コロッケは入っていたのだが、コロッケを乗せたトレイは、まるで蜂蜜のようにとろりと溶け出し、ほとんど原型をとどめていなかった。2やはり、トレイごと入れてはいけなかったのだ。今ごろになって気づいても後の祭りだ。トースターに入れる瞬間、このまま入れても大丈夫なのだろうかと不安がよぎったが、上にかかっているラップだけを取れば大丈夫だろうと安易に判断したのが間違いだった。
3私は、とてもお腹がすいていたが、当然のことながら、コロッケは諦めなければならなかった。しかも、母が帰ってくる前に、トースターの中で溶けているトレイを取り除かなければならない。空腹の私にとって、それは非常に過酷な労働に思えた。4でも、母に見つかったら叱られるに違いない。私は、急いで布巾を濡らし、トースターの中の形のないトレイを取り除こうと、手をつっこんだ。
「あちっ。」
私は、思わず手を引っ込めた。トースターの中はまだ熱かった。冷ましてからでないと作業ができない。5でも、時間がない。仕方がないので、うちわを持ってきて思い切り仰いでみた。すると、トースターの底の方に残っていたパンくずが舞い上がり、さらに大変なことになりそうだったので、すぐにやめた。私は、ただ布巾を手に、付近をうろうろするしかなかった。6そうこうしているうちに、母が帰ってきてしまった。トースターを見た母は、すべてを悟り、あきれたようにため息をついた。
結局、トースターは、母が掃除をしてくれた。一段落したところで、私は母に、料理で失敗したことがないかどうか聞いてみた。7母は、中学生のころ、家族のために野菜炒めを作ったことがあるそうだ。フライパンで野菜を炒め、味つけをする際、勢いよくコショウを振っていたら、ビンのふたが取れて、一ビン分のコショウが
|