長文が二つある場合、音読の練習はどちらか一つで可。
1「先生、その話は前に聞きました!」
僕が通う個人塾の先生は、祖父と同じぐらいの年のおじいちゃんだ。それもそのはずで、僕の母が子供のころ、勉強を習っていたというくらい昔から先生をしているのである。2頭ははげていて、やせているが、背すじはいつもピンと伸びている。声も大きくて、授業はとてもわかりやすい。
ただし、先生の話はときどき脱線する。特に、好きな時代劇の話となると、前にも聞いた内容を何回でも繰り返す。3授業時間がつぶれると喜ぶ人もいるが、テストの直前でもそれをやるので、そのときにはみんな焦ってしまう。
そんな先生の話の中でも、とくに強烈だったのが「海底戦車」だ。地理か歴史の授業のときに聞いた話だった。4冷戦時代に、ソ連が作った「海の中を走れる戦車」が、オホーツク海を渡ってはるばる日本まで偵察に来ていたのだという。当時の雑誌に、くっきりと車輪のあとがついた海底の写真が載っていたそうだ。まるで、今で言う「都市伝説」のような話である。
5母に聞いた話によると、先生は、昔はとても怖かったそうだ。母もひどく叱られて、泣きたくなったことがあったと言う。それは「海底戦車」以上に、僕にとって信じられないことだった。今の先生は優しくて、叱られたことなど一度もない。
6次の日、僕は先生に「うちのお母さんが、泣きたくなるほど怖かったって言ってたけど本当ですか」と、みんなの前で聞いてみた。すると、先生が突然僕をにらみつけ、低い声で、
「こんな風に泣かせてたんだぞ。どうだ怖いか。」
と凄んだ。7そのあまりの迫力に、僕ばかりか周りにいた友人たちも一瞬、凍りついたかのように息を飲んだ。
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