1さて、人間を科学的に知ろうとすると、えてして人間を、機械のように考えようとする傾向があります。心臓はポンプで、眼はカメラで、脳はコンピューターのようなもの、と考えたりします。テレビのSF作品にも、よく登場する機械のような人間や、人間のような機械がそれです。
2人体を機械と同じように、心臓や胃などの部分品が集まってできているものと考える考え方では、胃がおかしいときには胃という部分品が故障したと考えます。そうして、胃を修繕しさえすれば、病気が治ったと考えることになります。
3また、脳とコンピューターを同じに考える人には、いまのコンピューターは脳の代わりを完全につとめることはできないまでも、ある面では脳よりもすぐれているようにみえます。そうして、いつの間にか、コンピューターと同じようにはたらく脳をすぐれた脳と思うようになります。4速く正確に計算ができたり、なんでもそのまま記憶できたりすることが、アタマがよくなることだと考えている人も少なくないでしょう。
しかし、人間は機械と同じなのでしょうか。人間は複雑な機械にすぎないのでしょうか。5もちろん、人間には機械に似たところもあります。そこで、人間のことを機械を研究するように研究するのも無意味ではないのですが、しかし、そこでわかることは人間の一面だけなのです。それを暗示する例を一つ紹介しましょう。
6アメリカでは、一九七七年の建国二〇〇年を記念するつもりでその何年も前から火星へのロケット着陸とガン制圧という二つの大きな研究目標をたてました。このときまでに科学者が力を合わせて大規模な研究をした結果、すでに人工衛星をつくることができたし、月旅行も成功していました。7従って、この二つの大きな研究目標も同じように達成できるという自信があったのでしょう。ところが月旅行の技術を進歩させた火星ロケットは成功しましたが、一方のガンの治療の方はあきらめざるをえませんでした。8つまり、機械をつくる科学は急速に進歩していますが、そういう科学では生物や人間のことは必ずしもわからないのです。機械と人間は同じで
|