1ある種の動物では、群れをなして生活している個体と個体の間に交信行動がなされていることが知られている。また、人間とイヌなどの間でも交信行動は認められる。飼い主が飼い犬に対して、物を投げて取ってこいと指示したり、飼い犬が飼い主に対して、ほえたり、衣類を引っ張ったりして食べ物を求めたりするのがこの例である。2しかし、伝達できる内容の範囲はごく狭く限定されている。
動物相互間、人間と動物間の交信行動は、ごく貧しいものであるが、人間相互間で交わされる言語は、これらとは比較にならないほど豊かなものを持っている。
3人類学者によると、地球上のいかなる種族でも、それぞれの言語を持っていると言われる。言語は人間であることの重要なしるしなのである。我々自身の生活を考えればすぐ理解できるように、言語は人間の生活に深いかかわりを持っている。
4第一に、我々は日常、多くの人に接し、意志や感情を伝達し合っているが、そのほとんどは言語を媒介としたものである。身振りや顔の表情などによる、言語を用いない伝達方法もあるが、「これらはしばしば不確実なものになりやすい。5言語を通して相互の正確なコミュニケーションが可能なのである。
第二に、言語を持つことによって、人はその経験を豊かにし、知識を広げることができる。人が自分で直接に見たり聞いたりできる範囲は、ごく限定されたものである。6遠い昔の歴史上のことや、行ったことのない国の様子について知ることができ、イメージを描くことができるのは、我々が言語を持っているからである。一つの問題について他の人が研究した論文や著書を読み、それを理解することによって、更に自分の研究を発展させていくことができる。
7四、五歳の幼児が、三、四人集まって昨日の夕方見たテレビのマンガについて話し合っている。どこでも見られる光景であるが、これが可能になるのは、昨日見たマンガの内容を理解し、それを記憶し、そのことを相手に分かるように言語で伝えなくてはならない。8幼児たちに共通に理解し合える言語が、ここになければならないのである。たまたまこの幼児の一人が昨夕のテレビを見ていなかったとする。その子は友達の話を聞いて、マンガの筋を理解し、それが今晩見るときの助けにもなるのである。
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