1そのときでした。
「こらっ、おまえなんかに、水をのまれてたまるもんか。きたならしい。むこうへいってしまえ。」
2きんじょの男がたけのぼうで、こじきをおいはらいました。
ガンジーは、もう、がまんができませんでした。
3「おじいさん、まって。ぼくが、くんであげるよ。」
ガンジーは、いそいで水をくみあげると、こじきをやさしくつれもどしてきました。
4「ぼっちゃん、ありがとうございます。」
年よりのこじきは、ぽろぽろなみだをこぼしながらも、さもおいしそうに水をのみました。5やせた犬も、ぺちゃぺちゃ水をのむと、さもうれしそうにガンジーの顔を見あげるのでした。
ガンジーは、みんながじぶんを見ているのに気がつくと、まっかになって、家へかけこみました。
6ゆうごはんのあとで、ガンジーは、おとうさんにきょうのはなしをくわしくしました。ガンジーのおとうさんは、インドで高いくらいについているやくにんでした。7そのおとうさんは、にこにこすると、
「おお、おまえは、よいことをしてくれた。かわいそうな人をたすけるのは、人間のつとめなんだ。よいことをするのに、しりごみしていてはいけない。8よくやったね。きょうのおこないは、ゆうきがあって、りっぱなものだ。おまえは、よわむしでもなければ、いくじなしでもないのだ。大きくなっても、ただしいことをするそのゆうきをなくしてはいけない。」
9いつも、じぶんをいくじなしだとばかり思っていたガンジーは、はじめてそうでないことがわかりました。そして、むねが、すーっとあかるくなるのでした。0
(二反長半編 白木茂著 「美しい話・いじんの心」より)
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