1今日は、お母さんに髪を切ってもらう日です。ぼくたち兄弟は、お母さんに髪を切ってもらうことを、ママ床屋と呼んでいます。いつもママ床屋なので、ぼくは一度も床屋さんへ行ったことがありません。
2「準備できたよ。ひとりずつおいで。」
お風呂場からお母さんの声が響きます。ママ床屋は、お風呂場でお店を開くのです。夏は暑いので裸でちょうどいいけれど、冬のママ床屋はぶるぶる震えてしまいます。
3ぼくは急いで服を脱ぎ、お風呂場へ飛んでいきました。お母さんは右手にバリカンを持ち、ぼくを見るとにっこりしました。
「さあ、切ろうか。下を向かないで、ちゃんと前を見ててね。」
4そう言いながら、バリカンのスイッチを入れました。ウイーンウイーンと、バリカンの音が耳の近くで聞こえます。ときどき髪の毛が引っ張られるので、ぼくは、
「いてっ。」
と、まるでカメのように首をすくめます。5お母さんは、
「だめだめ。まっすぐにしていないと、変なところを切っちゃうよ。」
と言います。バリカンに刈られた髪の毛が、パサリパサリとぼくの肩や背中にくっつきます。そのうち、ちくちくと刺してきます。6体中かゆくてたまりません。
「ああ、もう限界だあ。」
と、ぼくが我慢できなくなるころ、後ろの髪のカットが終わるのです。
「できた、できた。じゃあ、今度は前髪。さ、こっち向いて。」
ぼくは、くるりと振り向きました。7目をつぶり、動かないように息を止めます。
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