1何年か前、中米奥地の調査に出かけた研究チームの報告を読んだ中に、こんなことがありました。調査団は、必要な器機等の持物一式を持って行くためにインディアンのグループをやとった。調査作業の全行程には完璧な日程表ができていた。2そして初日から四日間はプログラムが予想以上によくはかどった。運搬役のインディアンたちは屈強で従順で、日程どおりにことが進んだのだ。ところが五日目になって、彼らは先へ行く足をぷっつり止めた。3だまって全員で輪になり、地べたに座りこんで、もうてこでも動かない。調査団の人たちは賃金アップを提案したがだめだった。しかりつけたり、ついには武器まで持ち出しておどしたりしてみたが、インディアンたちは無言で車座になったまま動かない。4学者たちはおてあげの状態で、とうとうあきらめた。日程には大幅な遅れが生じた。と、とつぜん――二日後のことだった――インディアンたちは同時に全員が立ちあがった。荷物をかつぎあげ、予定の道を前進しだした。賃金アップの要求はなかった。5調査団側から改めて命令したのでもなかった。このふしぎな行動は、学者たちにはどうにも説明のつかぬことだった。インディアンたちは、理由を説明する気などまるでないらしく、口をとざしたままだった。ずっと後になって、はじめてひとりが答えをあかした。6「はじめの歩みが速すぎたのでね。」という答えだった。「わたしらのたましいがあとから追いつくのを待っておらねばなりませんでした。」この答えについて、私はよく考えこむことがあります。私たちは、外的な時間計画=日程をとどこおりなくこなしていきます。7が、内的時間、たましいの時間にたいするこまやかな感情を、とっくに殺してしまいました。私たちの個々人にはもはや逃げ道がありません。ひとりでワクをはずれるわけにはいきませんから。私たち自身がつくってしまったシステムは、厳しい競争と殺人的な業績強制の経済原理です。8これをともにしないものは落伍します。昨日新しかったことが、今日はもう古いとされる。先を走る者を、はあはあ舌を出しながら追いかける。すでに狂気と化した輪舞なのてす。だれかがスピードを増せば、ほかのみんなも速くなるしかない。この現象を進歩と名づける私たちです。9が、あわただしく走り続ける私た
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