a 長文 6.1週 ha
長文が二つある場合、音読の練習はどちらか一つで可。
「これってどういうこと? 教えてよ。」
 わたしの家では、家族どうしの会話がとても多い。テレビや新聞を見ていて、気になることがあると、みんな遠慮なくえんりょ  口に出す。名前の分からない芸能人がいれば父はわたしに聞いてくるし、可愛い動物が映れうつ ば母は大喜びでみんなを呼ぶよ 中学生の兄はすぐに、聞いてもいないうんちくを言いたがる。
 そういうわたしも、自分が好きな本や映画えいがの話になると、「これはこういうあらすじで、こんな登場人物がいてね……」と解説を始めてしまうのだから、始末に終えない。
 ああでもないこうでもないと話しているうちに、気がついたら番組そのものが終わっていた、ということも少なくない。自分の考えをしゃべって、家族の意見を聞いて、納得なっとくすることが楽しいのだ。
 ある日、わたし帰宅きたくすると、父と兄が何事か言い合う声が聞こえてきた。ふだんのんびりして頼りたよ なさそうな父と、ダジャレばかり言っている兄。そんな二人がこんなに熱くなるのは珍しいめずら  ことだ。
 まさか喧嘩けんかかとわたしは身を固くしたが、よくよく聞いてみると、どうやら二人とも同じことについて怒っおこ ていて、その不満を述べ合っているらしい。わたしはひとまず安心して、何があったのかと聞いてみた。
 すると兄は「はやぶさ」のことだと教えてくれた。小惑星しょうわくせい探査たんさ機「はやぶさ」が、長い宇宙うちゅうの旅を終えて地球に帰ってくる。それも、さまざまなトラブルを乗り越えの こ て、奇跡きせき的に。わたしはそんなものが存在そんざいしていたことすら知らなかった。
 父と兄は、その世紀の瞬間しゅんかんがテレビ中継ちゅうけいされないことに憤慨ふんがいしていたようだ。とはいえ、今はちょうどサッカーのワールドカップが始まったところだ。四年に一度のイベントを優先ゆうせんする方が当たり前ではないかと、わたしには思えた。
 333231302928272625242322212019181716151413121110090807060504030201 

 わたしがそう言うと、兄はいっそう大きな声で、わたしに「はやぶさ」の魅力みりょくを語った。その任務が世界初の試みであること、事故でボロボロになったにも関わらず必死に帰ってこようとしていること、中でも一番驚いおどろ たのは、その放浪ほうろうの旅が七年にも及んおよ でいるということだった。四年に一度どころではない。
 兄たちはこれから、わざわざジャクサのホームページに接続して、動画で帰還きかん見届けるみとど  のだという。せっかくだからとわたし一緒いっしょに見ることにした。その映像えいぞうはお世辞にも鮮明せんめいとは言えなかったが、燃え尽きも つ ていく「はやぶさ」の姿すがたは、まるで大きな流れ星のようだった。そしてわたし翌日よくじつ、その美しさについて、見ていなかった母に熱く語って聞かせることになったのである。
 人間はだれかと対話をすることで、新しいことを知り、自分の世界を広げることができる。そうした対話を欠かさないことは、わたしの家族の長所と言っていいと思う。じっくり話してみることで、身近な人のさらなる長所を見つけることもできる。わたしは、これからも家族の対話を大切にしていきたい。

(言葉の森長文作成委員会 ι)
 666564636261605958575655545352515049484746454443424140393837363534 
 
長文 6.1週 haのつづき
 昆虫こんちゅう幼虫ようちゅうが育つ日数(幼虫ようちゅう期間)は、哺乳類ほにゅうるいなどにくらべて短いものが多い。夏のイエバエはたった一週間で幼虫ようちゅうが発育をとげてさなぎになり、四日たつとさなぎから成虫に羽化するというスピードぶりである。一方、カワゲラ類の三年.ムカシトンボの五年、アブラゼミやミンミンゼミの六年などのように、犬やねこより長くかかって親になる昆虫こんちゅうもいる。
 しかし、上には上があるもので、五〇年もかかって育つ昆虫こんちゅうがいる。アメリカ西部にすむアメリカアカヘリタマムシがその記録保持者である。日本のタマムシはその美しさゆえに、法隆寺ほうりゅうじ国宝こくほう玉虫厨子たまむしのずしはねが使われているが、アメリカアカヘリタマムシも美麗びれいさにかけてはひけをとらない甲虫(こうちゅうで、金緑色の翅鞘ししょうが赤くふちどられている。
 このタマムシは樹勢じゅせいのおとろえたアメリカマツを選んで産卵さんらんし、幼虫ようちゅうは木の内部を食べて二、四年後にさなぎになり、羽化した成虫は、ひと冬木の中ですごしてから脱出だっしゅつする。ここまでなら、成育日数が多少長くかかる昆虫こんちゅうにはよくある話で、それほど珍しいめずら  ことではない。
 ところが、幼虫ようちゅうが小さいうちに林のマツが伐採ばっさいされて建材になると、発育の間のび現象がおこる。建築後数十年たった家屋の柱、床板とこいたまどわく、あるいは長年使ってきた食器戸棚とだななどから、ひょっこり成虫が現れてくる。それもアメリカだけでなく、この虫が分布していないはずのヨーロッパやグアム島などで国内羽化が記録されている。それは、幼虫ようちゅうのひそんでいたマツの木材がアメリカから輸入されて使われたためである。
 この虫は伐採ばっさいしたマツ材にはけっして産卵さんらんしないから、伐採ばっさい後何年目に成虫が出現したかでおおよその成長記録が推定すいていできる。最高記録の五一年は幼虫ようちゅうとして発見されたものなので、半世紀以上かかって育ったことになる。
 幼虫ようちゅう期間がふつうの一〇倍以上もかかる理由は、木材が乾燥かんそうして水分が不足したための発育遅延ちえんと説明されている。乾燥かんそうにより
 999897969594939291908988878685848382818079787776757473727170696867 

命がのびたという見方もできる。乾燥かんそうという厳しいきび  逆境で、体がひからびて死ぬこともなく、しぶとく育つこの虫の生命力には驚嘆きょうたんさせられる。
 極限の乾燥かんそうにさらされながら何年も生きぬく、もう一つのすごい虫にアフリカのユスリカがある。ユスリカの幼虫ようちゅう(アカボウフラ)は水生で、水がないと発育できないだけでなく、水がなくなれば死がおとずれる。しかし、ナイジェリアの砂漠さばくにすむポリペディウムというユスリカの幼虫ようちゅうは例外である。日照りがつづいて水が干あがるひ   と、土の中でミイラのように縮んちぢ 姿すがたになり、雨が降るふ のを何ヵ月かげつも待つ。じっとがまんの日がつづいたあと、旱天かんてん慈雨じう恵まれるめぐ   とよみがえって本来の姿すがたにもどり、発育を再開する。実験室で数年間乾燥かんそうさせて貯蔵ちょぞうした幼虫ようちゅうを水にいれたところ、すぐよみがえって活動をはじめたという報告もある。乾燥かんそうで命がのびたような気さえする。
 この虫は乾燥かんそうに強いだけでなく、短時間なら、摂氏せっし一〇二度からマイナス二七〇度の高低温にも耐えるた  という。
 
(安富和男の文章から)
 323130292827262524232221201918171615141312111009080706050403020100