a 長文 5.1週 ha
長文が二つある場合、音読の練習はどちらか一つで可。
 パーツに接着ざい塗りぬ 慎重しんちょうに土台と組み合わせる。よし、これで完成だ。
 ぼくが集めているものは、プラモデルである。プラモデルといっても、「ガンプラ」のようなキャラクターモデルとは一味違うちが ぼくが作っているのは「しろ」の模型もけいなのだ。
 白鷺城しらさぎじょうとも呼ばよ れる姫路城ひめじじょう、織田信長の天下布武ふぶ象徴しょうちょうである安土じょう、豊臣秀吉ひでよし大阪おおさかじょう、……たくさんのしろを組み立ててきた。
 普通ふつうのプラモデルは簡単かんたんに作れて、完成させたあとに遊ぶことが目的の「おもちゃ」の一種という感じだが、しろ模型もけいはそうではない。作り終わってしまったら、飾っかざ 眺めるなが  しかすることはない。つまり、作ることそのものに意義があるのだ。おもちゃというより工作に近いかもしれない。
 ぼくも昔は、車やロボットのプラモで遊んでいた。しかし、学校の授業で日本の歴史を学び、武将ぶしょうの伝記などを読むようになって、がぜん戦国時代に興味を持つようになった。
 そこで去年、初めてしろのプラモデルを買ってみた。今までと全く違うちが 買い物に、店のおじさんは、ほうっという顔をして驚いおどろ た。
「これは作るのが難しいむずか  よ。接着ざいを使うけど、持っているの。」
 そう心配してくれたが、ぼくは力強く、「大丈夫だいじょうぶです」と宣言せんげんした。
 確かに初めは悪戦苦闘あくせんくとうしたが、すぐに作り方のコツが飲み込めの こ た。
 今では、本棚ほんだなの上にたくさんの空き箱が積み上がっている。この箱を材料にして、さらに巨大きょだいしろの工作が作れそうなほどだ。
 特に気に入っているのが、小田原じょうのプラモデルである。姫路城ひめじじょうや安土じょうより知名度が低いせいか、模型もけいとしての出来栄えはもう一歩なのだが、それでもぼくにとってはいちばんの名城めいじょうである。なぜなら、このしろは今でも地元の神奈川かながわ県に残っていて、ぼく自身も実際に行ったことがあるからだ。
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 しろの中にはいろいろな展示てんじ物があった。戦国武将ぶしょう甲冑かっちゅうやりを見られたことは感動的だったが、外国からの観光客に分かりやすくするためか、忍者にんじゃが使う手裏剣しゅりけんが「シュリケン」などとローマ字で書かれていたのには笑ってしまった。
 自分の手で組み立てた小田原じょう眺めなが ていると、天守閣てんしゅかくから見た景色が思い出される。意識が模型もけいしろの中に入っていき、当時の自分と重なるような気持ちがする。
 ぼくはさまざまなしろのプラモデルを集めることで、そのしろが築かれた背景はいけいや歴史に詳しくくわ  なった。それぞれのしろ特徴とくちょうと、その違いちが 探究たんきゅうしていくことはとても楽しい。それに手先も器用になって、クラスでも頼りたよ にされることが多くなった。
 何かを集めるということは、その物事に興味を持ち、理解を深めていくということだ。集めた物自体も大切だが、それを通じて手に入れた知識や技術が、人間にとって何より大切な財産になるのだと思う。

(言葉の森長文作成委員会 ι)
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長文 5.1週 haのつづき
 成長の速い子供こどもをタケノコのようにすくすく伸びるの  といい、タケノコは昔から成長が速いものの代名詞だいめいしとされてきたが、実際にその成長速度を測った人はあまりいないだろう。竹博士として有名な上田弘一郎こういちろう氏(京都大学名誉めいよ教授)によると、マダケのタケノコで一日に一二一センチメートル、モウソウチクのタケノコで一日に一一九センチメートルも伸長しんちょうした例があるというから、その成長速度はすさまじいものである。とくに昼間の伸長しんちょうは速く、一時間に八〜一〇センチメートルも伸びるの  ことがあるというから、これを換算かんさんすると一分間に約一・五ミリメートル伸びるの  ことになり、タケノコは、見る見るうちに伸びるの  ものだといってよい。雨後のタケノコともいわれるように、雨の降っふ たあとなどは、とくに数多くのタケノコがにょきにょきと現われてくるのであって、そのようなとき、手入れのゆきとどいた竹やぶの緑の中に、茶褐色ちゃかっしょくの皮をかぶったタケノコが無数につき立っているありさまは実にみごとなものだ。
 なぜこれほど多くのタケノコが、これほどすさまじい勢いで成長することができるのであろうか。それは、地下に張りめぐらされた無数の地下茎ちかけいから多量の栄養が供給きょうきゅうされるためであり、また、早くに成長することを止めた親竹が光合成でかせぐ栄養のすべてを、タケノコに供給きょうきゅうするためだといってよいだろう。
 竹の根を掘りおこしほ    た経験のある人は、地下茎ちかけいがぎっしりと張りめぐらされているのを見て驚かおどろ れたことと思うが、そのありさまは実際に掘っほ たことのない人には、とても想像できないものである。上田氏らの調査では、モウソウチク林で、一平方メートルあたり一一メートル、マダケ林では一平方メートルあたり一九メートルもの地下茎ちかけいが張りめぐらされていたという。これらの地下茎ちかけいは、たいへん太いものであるから、竹林の土の中には地下茎ちかけいがぎっしりとつまっているといっても過言でない。四〜五月に出てきたタケノコは、地下茎ちかけい蓄えたくわ られた栄養と親竹から供給きょうきゅうされる光合成産物を利用して急速に伸びるの  が、五〜六月には早ばやと伸長しんちょうを終わ
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り、夏の間は伸びるの  ことなく、つぎつぎと葉を開いて光合成を行う。この時期には、その年に成長した竹だけでなく、前の年あるいはそれ以前に地上に現われた竹も、ほとんど成長することなく光合成で獲得かくとくする栄養分をすべて地下茎ちかけいに送るのであるから、地下茎ちかけいはどんどん大きくなるばかりでなく、栄養をたっぷりと蓄えるたくわ  ことができる。植物の成長にとっても好都合な夏の間、竹はさんさんと降りそそぐふ    夏の太陽のエネルギーを利用してつくる光合成産物を、ほとんど地上部の成長についやすことなく、せっせと地下茎ちかけい送り込んおく こ 蓄えたくわ ている点に注目してほしい。このために、よく春に出るタケノコがすくすくと成長できるのである。
(中略)
 ふつう、一本の若竹わかたけを育てるのに五本以上の親竹の協力が必要だといわれているのに、出てくるタケノコの数はそれよりもはるかに多い。そのため、タケノコ社会でもはげしい生存せいぞん競争が演じられることになるが、このとき竹は、弱者を遠慮なくえんりょ  切り捨てき す 、すべての子供こどもに平等に栄養を与えあた て多数の栄養不全の子供こどもをつくるようなことはしない。人間社会ではとうていまねのできない決断である。
(中略)
 わたしたちが若いわか タケノコをとって食用に供するきょう  のは、このような犠牲ぎせい者の数を減らすのに役立っており、逆にいえば、わたしたちはトマリタケノコを若いわか うちにとって食べていることになる。このように考えると、タケノコをとることは、その量さえ多すぎなければ竹林の成長を妨げるさまた  ことにはならないのであるから、わたしたちは安心して、タケノコを食べることができる。
 
 (たき本 「ヒマワリはなぜ東を向くか」より)
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