1ピピは町のどうぶつえんに、つれてこられました。こんどあたらしくひらかれたどうぶつえんです。
園長さんは大よろこびで、かかりの二郎をよびました。
2――二郎くん、白クマの子どもだよ。きっとみんなよろこぶ。さあ東のC26番にいれたまえ。
東C26のおりは、ペンギンの島です。白い大きな氷の山がつくってあり、まわりはプールです。もっとも氷はコンクリート製ですがね。3しかしペンギンは、つぎの捕鯨船でもってきてもらえることになっているので、まだ一ぴきもいません。
ピピがC26のおりのうらからかおをだしてその白い氷山をみたとき、どれほどよろこんだことでしょう! 4おもわず二郎の手に鼻をこすりつけたほどです。さあっとからだじゅうにきれいな水がはしり、青空をたべたような気もちでした。ピピははねまわって氷山にとびうつり、さて、首をペタリとつけて、ねそべってみました。5北のくにでは、いつもこうして、おひるねをしていたものですからね。
ところが、オヤオヤオヤ、首のところがちっともひんやりしないのです。おかしいな、とおもってピピは、もうすこし下へおりてゆき、そこでまたねそべってみました。6やっぱりおなじです。ピピはおきあがって、じっと氷山をみあげました。まっさおな夏の空を背にして、ぐっとつったつなつかしいふるさとの風景とおなじです。
おかしいな。ピピはおもいきってエイッと氷をひっかいてみました。7ジーンと、いたみがからだじゅうをつきとおって、手がしびれました。なにしろ、コンクリートをおもいきりひっかいたんですからね! つめがはがれて、ピピの右手は、たちまちまっかです。けれどピピは、くやしくってくやしくっていたみなどかんじません。
8だまされたのです。こんなかたい氷山などこしらえて!
ピピはそのときからずっと、おりのおくから、ちっともでませんでした。だまって目をとじて、すみっこでねむっているのです。
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