a 長文 2.3週 e
 すごくきれいね! トトが、かあさんをふりむいていいました。
 もりあきもりはきんいろとべにいろの色紙いろがみ細工ざいくです。もっと、あっちへいこう、――トトは、かあさんにせがみました。あぶないわ。いまは、にんげんがやまなかをあるきまわるときなのよ。かあさんがとめました。だってこんなにきれいなんだもの。トトはピョコピョコ、シカのよこっとびでかけだしました。そしてたにまへのみちにでたとたん、
――おッ!
 たちすくんだのはトト。たちどまってさっと鉄砲てっぽうをかまえたのはにんげんです。わかいりょうしです。かあさんが、ひととびでトトのよこにならびました。そしてあたまで、トトをぐいと、おしていいます。トト、おにげ! トトはにげない。トトは、とうさんのことをおもいだします。これがとうさんをいなくしちまったにんげんか! トトはなつにあったポロをおもいだします。ゾクッとからだじゅうをむしゃぶるいがはしり、トトはあたまをぐっとさげ、するどいつきで、りょうしをにらみつけました。トト! かあさんが、またおします。けれどトトは、けんめいです。ポロとおなじかまえで、さっととびかかろうとしたとたん、
――あっはっは!
 にんげんがわらいました。
――うてねえな、おまえは……。
 そのわかいりょうしは、鉄砲てっぽうのつつさきをあげていいました。
――そのちびさんが、かあさんをまもろうってんだからな。
 トトはにんげんのいってることばは、わからない。ただ、かあさんがもうおさないので、きけんがさったことは、わかりました。
――おれにゃ、うてねえよ。
 りょうしは白いしろ をみせて、かあさんに話しかけるはな    ようにいいました。
――こんなきれいなのこジカは、ころせねえ。
 かあさんはトトに、ぴったりよりそいました。
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トトはきゅうにぐったりして、そこへすわりこみたくなりました。そのとき、にんげんが、どなるようにいいました。
――おい、早いはや とこにげてくれよ! またがかわるかもしれないんだぜ。
 かあさんが、ぐいとトトをおしました。こんどはトトもひととびです。あかるい栗色くりいろの二つのてんがもりなかにきえたとき、りょうしは鉄砲てっぽうをかまえてそらにむけてうちました。
 グァアン! ……あかのかれはが、パラパラと、りょうしにふりかかりました。

「ぽけっとにいっぱい」『もりのシカ、トト』より(今江いまえ 祥智よしとも)フォア文庫ぶんこ
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