a 長文 2.2週 e
 ところがあくるあさ、かあさんゾウがをさまして、おどろきました。バオバブがいなくて、そのかわり、ぜんぜんしらないゾウが、よこにねむっているのです。かあさんゾウは、あわててとうさんゾウをおこしました。
 をこすりこすり、そのゾウをみてとうさんゾウもおおあわて。それにしても、なんというあつかましいゾウでしょう!
 いや、それよりも、バオバブは、いったいどこへいったのでしょう。
 ふたりはますますあわてて、そのゾウのおしりを、おもいきりけっとばしてやりました。もしかすると、その下じきした  になっているかもしれないではありませんか。かわいそうなバオバブちゃん!
 けれど、そのゾウはのんびりとをひらき、
――いたいなあ、とうさん……
 というのです。
――とうさんだって!
 とうさんゾウは、あきれてしまいました。こんな大きなおお  ゾウに、とうさんなんてよばれるおぼえはない。すると、かあさんゾウが、とんきょうなこえをあげました。
――まああ、とうさん、それはバオバブぼうやですよ!
――バオバブぼうやだって……。
 どうみても、ぼうやなんてからだつきではないのです。とうさんゾウより大きいおお  くらいなのですから。
――ほら、あの目の下め したのなきぼくろ……
 さすがはかあさんです。ちゃんと、むすこのとくちょうをおぼえていました。
――そうですよ、ぼく、バオバブですよ。 とうさんたら、じぶんのむすこをみわすれるなんて、ひどいなあ。
 そんなことをいったって、この大きなおお  ゾウを、どうしてきのうのかわいいバオバブぼうやだとおもえるでしょう。とうさんゾウは、じぶんのみみをひっぱってみました。
――まだあんなことをやってる。ゆめじゃありませんよォ。
 バオバブが、ふふくそうにいいました。
――ぼくだといったら、ぼくなんです。ぼくは、大きくおお  なるのがはやいだけなんですよ。
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 はやいといっても、はやすぎる、ひとばんでわしより大きくおお  なるなんてことがあるものか……と、とうさんゾウは、まだほんとうにできないようすです。
 しかし、そういうあいだにも、 バオバブは、どうやらすこしずつそだってゆくようなのです。とうさんゾウは、すこしずつのたかくなってゆくむすこをみあげなければなりませんでした。のまえのできごとです。ほんとうにするほかはありません。

 そのうちに、バオバブはとうさんの二ばいほどの大きおお さにもなってしまいました。ガスいりの風船ふうせんでなしに、なかみもちゃんとつまったほんもののゾウです。とうさんだといっても、きみわるがらずにはいられませんでした。このぶんでいったら、あしたは、どうなることでしょう。
 とうさんゾウとかあさんゾウはかおをみあわせるばかりでした。
 
 バオバブは、そのちょうしでどんどん大きくおお  なりはじめました。
 とうさんゾウは、むすこのかおをみるのに、えらくなんぎしなければなりませんでした。もともとくびのないゾウのこと、みあげるのはにがてなのです。
 でも、そんなことはまだよかったのです。こまったことに、バオバブのからだが大きくおお  なるにつれて、バオバブがたべるものも、ずんずんふえてゆくのです。みるみるうちに、あたりのたべものは、きれいさっぱりなくなってしまいました。これでは、ゾウがものすごいいきおいでふえてゆくようなものでした。とうさんゾウは、いそいでとしよりたちのところへしらせにいきました。

 はなしをきいてほんきにしなかったとしよりたちも、バオバブをみると、たまげてしまいました。これが、ついこのあいだ、ほそいはなをかぜにふかれてをほそめていたゾウのあかんぼうでしょうか。
 としよりたちは、イヌがウマをみあげるようにバオバブをみあげなければならないので、すっかりあわててしまいました。そして、バオバブのたべっぷりをみて、もっとあわてました。これでは、いくらたべものがあっても、たりなくなってしまう。たいへんなゾウをかかえこんだものです。
「ぽけっとにいっぱい」より(今江いまえ 祥智よしとも)フォア文庫ぶんこ
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