a 長文 1.3週 e
 ひろいせかいにでられたうれしさに、ユラは、からだじゅうウーンとのばして、はなのひらくようにひらいたのです。ところがね、おわんのようにまるいぼうしのかわりに、ユラのは四角しかく、まっ四角しかくなのです。ユラは、となりにうかんでいるなかまにたずねました。
――ねえきみ、ぼく、まるくならないんだよ。
 するとそのクラゲは、ユラをながめて、おおごえをあげました。
――おやおや、ほんとだ。おーい、みんな、みてごらん。へんなのがいるぜ。
 たちまち、なん十ぴきものクラゲたちが、ゆらゆらゆらとなみにのってきて、ユラをかこみました。
――へんなの。
――まるくないぜ。
――ぼくらとちがってらあ。
――クラゲじゃないわ。
 ユラぼうやは、びっくりしました。
――ちがうよ、ぼく、クラゲだよ。ほら、あしもみんなとおなじだけあるし、いろもこえも、おなじじゃないの。
――だって、まるくないぜ。
――四角いしかく クラゲなんてみたことないや。
 そこでみんなこえをそろえて、アッハッハとわらうのです。
 ユラはもう、なにもいえなくなり、そのままうみのあおいろのなかにとけてしまいたいとおもいました。あぶくのように、シュンときえたほうがいいなとさえおもいました。けれど、どちらもできぬこと。ユラはだまって、なかまからはなれました。そして、ちいさななみ、大きなおお  なみにゆられながら、そのよるは、ひとりでねむりました。
 あくるあさから、ユラはいっしょうけんめいに、じぶんのなかまをたずねてまわりました。
 まず、イカのところでききました。
――ね、ぼく、あんたのなかまなの?
――じょうだんじゃなぃ。四角いしかく イカなんているものか。イカは三角さんかくにきまってる。一角いっかくおおいよ。それに、きみは、ぼくみたいにはやくおよげないじゃないか。
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 そういうとイカは、ロケットみたいにシュウッとみずをふくむと、さっとおよいでいってしまいました。ふうん、と、ぼうやはまたゆられてゆきます。
 こんどはタコ。
――ね、ぼく、あんたのなかまかしら?
――なんだって。そんな白いしろ タコなんているかい。それにあしのかずだってちがうし、だいいち、このイボイボがないじゃないか。
 そういうと、コはプウウッとスミをふっかけて、いってしまいました。
 だめかなあ……ぼうやはスミをふきとりながら、またゆらゆらとはなれてゆきます。
 つぎはナマコ。
――ね、ぼく、あんたのなかまだね。
――フフフフ、きみ、あしながすぎますよ。ほら、ぼくらは、もっとずんぐりしてるんだよ。
 そういいながら、ヨタヨタと、からだじゅうであるいていってしまいました。
 クラゲのぼうやは、しかたなく、もとのところへもどるほかはありませんでした。
 けれど、みんなもなかまにいれてくれません。ユラはひとりぽつんとはなれて、ゆらゆら、ゆられていました。
 ユラは、できるだけまるくなろうとやってみました。ぜんぶのあしをつっぱって、あたまをまるくおしてみたり、プーンと、おもいきりふくれてみたり、いわにかどっこをゴツンとぶつけてみたり……でも、どうしても、まるくならないのです。そのよる青いあお 三日月みかづきが、そらにかかっていました。
 ひとりぼっちのユラは、三日月みかづきにきいてみようとおもいました。
――ね、おつきさま、ぼく、どうしてまるくならないのかしら……。
 おつきさまは、なにもこたえない。ただ、きれいにしずかに光っひか ています。でも、あおいひかりをあびていると、ユラはとてもなつかしい気もちき  になって、ひとりでに、おいのりしたくなるのでした。

「ぽけっとにいっぱい」『四角いしかく クラゲの』より(今江いまえ 祥智よしとも)フォア文庫ぶんこ
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