昨日582 今日927 合計160752
課題集 ビワ3 の山

○自由な題名 / 池新


○「ウサギの耳は / 池新
 「ウサギの耳はなぜ長い。カヤの実、シイの実食べたから。」
 こんな歌を子どものころ、聞いたことがある。絵本には、長い耳を後ろに倒し、フルスピードで走っているウサギが描かれていたのを覚えている。
 耳がひっかかるようなヤブなどをくぐり抜けるときは別として、広い原っぱなどを走るときには、ウサギはぴんと耳を上の方に立てているのが本当である。耳を後ろに倒していた方が絵としては、走っている姿としていいかもしれないし、耳に当たる空気の抵抗も少なく、スピードも出るわけである。
 なぜ耳をたてて走るかというと、ウサギにとっては、あの長い大きい耳に風をできるだけたくさん当てて走る必要があるのだ。
 人間でも、ウマでも、けんめいに走ると汗をかく。暑い季節ではなおさらである。この汗が蒸発することによって体熱を奪い、体を冷やすことは、ご存知のとおりである。普通、一グラムの水の温度を一度上昇させるために必要な熱量は一カロリーであるが、一ccの汗を蒸発させるためには約五四○カロリーを要する。
 ウサギには汗せんが絶対にない、というわけではないが、汗せんの機能が悪く、昔からウサギは汗をかかない動物といわれていた。
 キツネなどに追いかけられると、ノウサギは時速七○キロ以上のスピードで逃げるから、体内で急激に発生した熱は、血液によって風当たりの良い長い耳に運ばれて冷やされる。このためには、耳を後ろに倒していたのでは冷却の効果が上がらないので、やはり風当たりを良くするためには、ぴんと上に立てて走らなければならないのである。
 オートバイのエンジンには、ギザギザがあって、空気に当たる面積を広くしている。これと同じようにウサギの耳は空冷式の大切な器官であるから、長くて大きくなっている。
 ちなみに、ノウサギの体表面積に占める耳の表面積の割合は、けものの中で最も大きく、最も効率のよい空冷装置をもっているのである。私たちでも、うっかり熱い物に触れ、指先をやけどしそうになると、あわててその指先を自分の耳にもっていく。人間でも、耳は空気に触れる表面積が大きいので、いつも冷たいからである。∵
 ウサギの仲間はナキウサギ科とウサギ科の二つに分けられる。ナキウサギは、わが国では北海道の大雪山にみられ、ヒマラヤから北方に分布し、一四種類に分類される。ウサギ科はアフリカ、ヨーロッパ、アジア、アメリカなどに分布し、五二種類ある。
 われわれ人類の祖先はサルの仲間であり、サルの祖先はモグラの仲間である。このような哺乳類が地球上に初めて現れたころは、竜のような大きなトカゲが地上をわがもの顔に横行していたから、体の小さい哺乳類の祖先は地下にもぐってつつましやかに暮らしていた。
 モグラの仲間からネズミに進化したのは約一億年前といわれている。ウサギの祖先もネズミに近い間柄であるから、はじめはモグラのように地下にすんでいた。今日でも進化の遅れているウサギの仲間は必ず地下、岩穴などに巣を作る。

(林壽朗じゅろう「ウサギ 大きな耳は効率のよい空冷装置」)

○■ / 池新