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課題集 ヤマブキ3 の山

○自由な題名 / 池新
○ゴミ / 池新

★犬と人間の歴史をふりかえってみると / 池新
 犬と人間の歴史をふりかえってみると、哺乳類という共通点はあっても、先祖はまるで違う別の動物だということが分かります。
 だが、人間にとっていちばん身近にいて親しい動物は犬です。それも昨日今日のつき合いではない。数万年も昔から、人間と犬はごく身近に暮らしてきた仲です。
 まず考えられることは、そばにいればお互いに得になることがあったということでした。
 人間の祖先が木の上から下りて、地上で生活するようになってから、最も警戒しなければならなかったのは、大きな猛獣たちでした。
 その猛獣たちは、時代や場所によっても違いますが、たとえば、ライオン、サーベルタイガー、トラ、クマ、サイ、イノシシなどに人間の住まいが襲われたら、ひとたまりもありません。
 一方、犬たちにとっても、これらの猛獣は最も警戒する敵だったのです。そこに数万年も前に人間と犬が接近した問題を解く鍵があるようです。
 森の中で生活している類人猿たちの食物は、植物が主食です。木の葉や果実、木の実などです。動物性の食物は昆虫ぐらいなものです。だが、地上に下りた人間の祖先は、肉食獣と同じように狩猟をする必要がありました。彼らは大きな草食獣を倒すためには、鋭い牙や爪のかわりに石で武器を作ることにしました。
 石の剣は槍の先に結ばれて、草食獣たちには投げ槍になって飛びました。投げる槍に勢いをつけ、命中率を高くする「アトラトル」という道具を、弓矢を発明する前に発明していたのです。
 当時の狩猟法は投げ槍で獲物を倒したり、落とし穴に追い込むと、上から石を投げたりして殺しました。
 捕えた動物は食べるだけではなく、生活のために利用できるものはなんでも利用していました。シベリア地方には、二万年近い昔に作られた人間の家が残っています。それは数十頭のマンモスの骨を解体して作ったものです。骨を積みあげて、その上にはマンモスの皮をはいでかぶせたものです。いまでも、シベリアにはトナカイを従えて遊牧しているエスキモー民族の部族がおりますが、その人た∵ちが宿泊するときに建てるテントの幌は、トナカイの皮で出来たものです。この家は石器時代の名残りといえるでしょう。
 このように石器時代の人間は、動物を捕えたら解体しましたから、その住居のあとには、残りものを捨てる場所がありました。
 トラやライオンなら、獲物の大半は食べ尽くせますが、人間はそうはいきません。利用できるものは利用した後でも、骨や噛みきれない硬い筋などが残ります。そういう廃物を捨てておくと、それが犬にとっては魅力のある食物になったのです。
 犬たちはむろん自分たちの猟はしますが、不猟のときは人間の住まいのそばの捨てたものを狙うことも覚えたのでした。
 犬にとって、人間に近づきすぎるのは危険です。人間は犬も狙うからです。犬は食料にもなるし、毛皮は利用価値が十分にあります。だが、あるときから人間は、犬がそばにいると便利なことに気づきました。
 それは犬は猛獣が近づくことをいち早く知るからです。犬は自分の仲間たちに、危険を知らせるための遠吠えをしますが、それはそのまま人間への合図になりました。とくに視力がまったく役にたたなくなる夜間に、犬が近くにいることは、心強いことでした。
 また、人間は犬が天候の異変に敏感に反応することも分かったのです。とくに大雨になるようなときは大急ぎで自分の巣に帰っていくので分かりました。
 それは犬は人間よりもはるかに鋭い嗅覚と聴覚を持っていたから、遠くからの匂いや物音に敏感だったからです。
 このように犬がそばにいるほうが便利だということが分かってから、人間は犬が住居の近くに来て、捨てたものを餌として食べてもその犬を捕えようとはしなくなったのでした。

(沼田陽一「もし犬が話せたら人間に何を伝えるか」)

○■ / 池新