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課題集 ペンペングサ3 の山

○自由な題名 / 池新
○この一年、新しい学年 / 池新

★日本語では、自分の益となる行動を / 池新
 日本語では、自分の益となる行動を相手におこさせようとする場合、相手の行動を尊敬語で表現するよりも、それによって自分は恩恵を受けるのだということを表現すること、すなわち「〜ていただく」や「〜てくださる」あるいは「〜てもらう」を付ける方が、はるかに相手に丁重に接していることが表現されます。
 「〜てくださる」は自分が恩恵の受け手のときの表現ですが、逆に恩恵の与え手のときは「〜てさしあげる」となります。では、この表現は実際に使えるでしょうか。
 たとえば、重い荷物を持っている人を助ける場合、「持ってさしあげましょうか?」は使えそうです。しかし、どこか恩着せがましさが感じられます。相手が会社の上司の場合はさらにそのニュアンスが出てしまい一層使いにくいのではないでしょうか。むしろ「持ちましょうか。」の方がいいくらいです。
 こうした「やりもらい」の表現は、日本語において敬語と同様に、あるいは場合によっては敬語以上に、相手に対する配慮の表現として機能しているようです。
 相手に対する配慮として機能している表現は他にもありそうです。たとえば会社で、コピーを取ってきてくれるよう頼む場合を考えて見ましょう。それを仕事のひとつとしている人に対してであれば「コピーとってきて。」と単刀直入に言えるかもしれませんが、そうでない人に頼む場合は、「ちょっと今忙しくてさ、悪いんだけど、コピーとってきてくれないかな?」のように、理由を述べたり、詫びを言ったり、文末を相手の可否を問う表現にすることを日常的に行っています。考えてみればこれらも、相手に対する配慮を言葉で表わしたものと言えます。
 相手から善意で何かを勧められてそれを断るということは日常よくあります。そのようなとき、「結構です。」とか「いりません。」のようにはっきり言うことを避けて、「あっ、でも、ちょっと……。」のように、断りの核心にあたる部分はあえて言わずあいまいにぼかすことを私たちはよく行っています。相手との関係を考慮してのことです。
 その一方で、相手から重要なことを頼まれてそれを断るような場合は、「あっ、でも、ちょっと……。」のようなあいまいな言い方∵だと相手に十分意思が伝わらずかえって迷惑をかけることがありうるため、「あっ、でも、○○なので、申し訳ないんですが、ちょっと無理です。」のようにあいまいでない言い方をすることもよくあります。
 同じ「断る」という状況でも、はっきり言わないことが相手への配慮である場合と、はっきり言うことが相手への配慮である場合とがあるようです。
 このように、相手に対する配慮は、敬語だけでなく、いろいろな表現によって実現されています。
 もっとも、これらには共通する特徴も認められるようです。一言で言えば「相手を尊重する」「相手をたてる」ということです。「敬意」と言い換えてもいいかもしれません。
 ところが、それらとは根本的に異なる発想に基づく「配慮」もありそうです。それは、「相手に近づく配慮」「フレンドリーになる配慮」とでも言える配慮です。
 若者がよく使うタイプの表現に「話とかしたよ。」「ダメみたいなこと言われて。」のようなあいまいな表現があります。これらは、仲間うちの言葉として、相手との心理的距離を縮めたり会話を促進する機能を持っていると言えます。距離を置かない親密な関係を築いたり確認したりするという配慮で使われている表現と言えそうです。「敬意」というよりも、もっと広い概念である「配慮」と呼ぶのがふさわしい表現のひとつです。最近よく聞かれる「いいっすよ。」のような表現も、一応「です」を付けて敬意を表す一方で、「です」を「っす」と崩すことで相手に少し接近するわけです。近づくことの配慮が現れた表現のひとつと言えそうです。

(『国語研の窓』掲載の尾崎喜光の文章に基づく)

○■ / 池新